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第二章 知りたくなるほど、言えなくなる

陽翔と奏は音楽を通じて少しずつ距離を縮める。

だが、奏の胸には言葉にできない切ない想いが募るばかり。

近づくほどに伝えられなくなる感情を抱えながら、彼らは静かに関係を育んでいく。

「お前、絶対音感あるだろ」

昼休みの教室、紙パックのミルクティーを片手に、瀬戸が急に言いだした。

僕は自分の弁当を食べる手を止める。

「いや、別にそんな......」

「嘘だね。音楽室でピアノの横に立っただけでなんか雰囲気変わったもん!え、何者?」

それは、音感とか関係ないのでは?と、つっこみたい気持ちを抑え、

「何者って...ただの人間だよ」

「いや、そういう意味じゃなくてさ〜」

冗談みたいな調子で笑っているけれど、瀬戸の目は割と真剣で、ちょっとだけ居心地が悪くなる。


あの日偶然、音楽室を覗いていた僕の気配に彼ははじめから気づいていたんだ。

—というより、最初からすべて見透かされていたみたいでちょっと怖いくらいだった。


「そういえば、奏って自分で曲作ってるんだって?」

「......誰に聞いたの」

「うちのクラスの佐々木が。なんか、前の文化祭で自作の曲流してたって」

あぁ、と小さく頷く。

あのときは映像部の後輩が、頼んできたんだ。

「映像に合うBGMをオリジナルで作ってくれ」って。

誰が作った曲か、なんてどうせ知られてないと思ってた。


「俺さ、ギターはじめてみようと思って」

「ギター?」

「うん。てかもう持ってる。コードも全部押さえられんだけど。」

「......じゃあ、まず指の皮死ぬね」

「すでに死にかけだっての〜!でさ、もしよかったら—」


瀬戸が言いかけて、ふと止まる。

真面目な話をしようとして、冗談に逃げようか迷っているときの顔だ。

何度か見たことがある。

そういうときの瀬戸の目は、なんだか少しだけ寂しそうだった。


「......ちょっと教えてくんない?ギター」

「え?」

「てか、音楽!奏での曲、聴いてみたいんだ」


胸の奥でまた何かが鳴った。

小さな音。前と同じ、でも少しだけ強くて、

心臓にじわっと染みてくるみたいな音だった。


嬉しかった。

でも同時に怖くもあった。

この距離を近づけてしまえば、きっともう戻れなくなる。

そう思ったのに、僕はなぜか言っていた。

「良いよ」

瀬戸はぱっと笑った。

その顔はどこまでも無防備で、どこまでも真っすぐで、僕が今一番見てはいけない顔だった。


僕の部屋でギターを持つ瀬戸。

僕のパソコンで、デモ音源を流して、「これ奏が作ったの!?」と驚く瀬戸。

僕が好きな曲を教えるたび、「聴いてみるわ」と言って、いちいち感想を送ってくれる瀬戸。

少しずつ、彼が僕の生活に入り込んでくる。

でも、それと同時に僕の気持ちは後戻りできなくなっていた。


曲を作る手が止まるたび、思い出すのは瀬戸の声。

旋律が生まれるたび、浮かんでくるのは彼の名前。

これが濃いじゃないなら、一体何なのだろう。


だけど、

絶対に言えない。

この関係を壊したくない。

彼が僕に向けてくれる、真っ直ぐな友情が本当に愛おしいから。

そして何より、瀬戸が笑っている世界に僕はいたいと思ってしまったから。


僕は今日もまた、曲を作る。

君に届かないように、君に気づかれないように。

でも本当は、

少しでいいから

君に聴いてほしかった。

奏でがやっと恋心を自覚しました。

この二人が今後どうなるのか、ぜひ見守ってください!

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