第十二章 それぞれの道
卒業式の翌日、静まり返った教室を訪れる奏。
そこに現れた陽翔と、もう二度と戻らない日々への寂しさを共有する。
「これからも音楽をやれるかな」という陽翔の問いに、奏は「絶対に」と答えるが、心の奥で抱える想いは言えないまま。
夕暮れ、校門で高山と最後に会う。
高山は「お前はお前の音を信じろ。俺はそれで十分だ」と言い残し、背を向けて去っていく。
その姿に、奏は静かな別れを実感する。
帰り道、陽翔と並んで桜並木を歩く。
「ありがとう、奏」と陽翔が告げるが、奏は笑って「またな」とだけ返す。
言えなかった言葉を胸に抱えたまま、三人それぞれの道が始まっていくのだった。
卒業式の翌日、校舎はもう静まり返っていた。
黒板には「卒業おめでとう」の文字がまだ残っている。
空っぽの教室に入ると、机や椅子の並びさえ懐かしく思えた。
窓際の席に腰を下ろしていると、陽翔が顔を出した。
「やっぱりここにいたか」
「......陽翔こそ」
「俺、まだ信じられなくてさ。明日にはもう、この教室に来られないんだなって」
彼はそう言いながら笑った。けれどその笑顔は少し震えていた。
「なぁ奏。俺ら、これからも音楽やれるかな」
「……やれるよ。絶対に」
強く言い切ると、陽翔はほっとしたように笑った。
その顔を見て、胸が熱くなる。
言いたい言葉は喉まで出かかっていたのに、やっぱり声にはできなかった。
「そろそろ行こっか」
「...ああ」
夕暮れの校門で、高山が待っていた。
制服姿のままポケットに手を突っ込み、無言でこちらを見ている。
「……これで本当に終わりだな」
彼の声は低く、どこか遠く感じた。
「奏、お前はお前の音を信じろ。俺は……それで十分だ」
それだけ言うと、高山は背を向け、歩き出した。
振り返らない姿が、空の赤に溶けていく。
帰り道、陽翔と並んで歩いた。
桜並木の下、花びらが風に舞う。
「ありがとうな、奏」
「…なにが?」
「全部だよ」
その言葉に、胸が張り裂けそうになった。
けれど僕は笑って「またな」とだけ答えた。
本当は「また」じゃなくて、「ずっと」と言いたかったのに。