第十章 揺れる残響
文化祭を終え、奏は胸の奥に残る余韻と揺れる想いを抱えていた。
ステージの成功は陽翔との絆を確かに感じさせたが、それが友情なのか、それ以上のものなのか、自分でも答えを出せない。
放課後、陽翔と二人きりで話すが、陽翔は何かを言いかけて飲み込み、「来年はもうここにいないんだな」とだけ呟く。その言葉に、近づきそうで遠い距離を痛感する。
後日、音楽室で高山と再会する。
高山は「文化祭はすごかった」と称えつつも、最後に「後悔だけはするなよ」と言い残して去る。
奏は高山の言葉に揺さぶられながらも答えを見つけられないまま、卒業式の日を迎える。
文化祭が終わったあとも、胸の奥に音の余韻が残っていた。
あの瞬間、確かに僕と陽翔は同じ景色を見て、同じ音を奏でていた。
だけど、それが「ただの演奏の成功」なのか、「それ以上の意味」なのか、答えは出せないままだった。
放課後、教室に差し込む夕陽の中で、陽翔が笑った。
「なぁ奏。……今日、楽しかったな」
「うん。すごく」
「俺さ、あんなに拍手もらったの初めてだよ。……でも、それよりも」
言いかけて、彼は口を閉じた。
少しだけ俯いて、視線を泳がせる。
僕の心臓は強く跳ねた。
今、もしその言葉が「あの言葉」だったら——
でも、陽翔は結局、何も言わずに窓の外を見た。
「……来年はもう、ここにはいないんだな」
その横顔は、どこか寂しげで、どうしようもなく遠かった。
数日後、音楽室に一人で残っていると、高山が現れた。
「文化祭、よかったよ。……お前ら、すげぇよ」
素直な賛辞なのに、その声は少し掠れていた。
僕は返す言葉を探せなかった。
けれど高山はそれ以上何も言わず、ただピアノに視線を落とす。
「奏。お前がどんな答えを出すのか……それはもう、俺の知ったことじゃねぇ。
けど、後悔だけはするなよ」
それだけを告げると、彼は背を向けて去っていった。
残された音楽室に、僕の心臓の鼓動だけが響いていた。
そして時は流れ、卒業式が近づいていく。
刻一刻と迫る別れの日に、僕はまだ「言えなかった言葉」を抱えたまま立ち尽くしていた。