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第九章 本番の音

文化祭当日、奏と陽翔は緊張に包まれながらステージに立つ。

最初はぎこちなかったが、演奏を重ねるにつれ二人の音は調和し、観客を魅了していく。

陽翔の不器用ながらも真っすぐな歌声は大勢の心を打ち、奏もまたその音に全ての想いを込めて応える。

演奏が終わると体育館は大きな拍手と歓声に包まれる。

隣で笑う陽翔の存在が何より鮮烈で、奏の胸に深く刻まれる。

そのとき、観客席の後方で静かに見守る高山の姿を見つけ、彼の複雑な眼差しが奏の心を揺らす。

文化祭当日の体育館は、人であふれていた。

ざわめきと熱気。ライトの眩しさ。

ステージ袖に立つと、心臓の鼓動が耳の奥まで響いてくる。

「……緊張してんの?」

陽翔が隣で笑った。

「そりゃ、するだろ」

「大丈夫。俺らなら、できる」

そう言う彼の手は、指先が震えていた。

それでも、その笑顔は不思議と頼もしかった。

名前を呼ばれ、ステージに出る。

拍手と歓声。

一瞬、足がすくみそうになる。けれど、陽翔が隣に立っている。

ピアノの前に座り、深く息を吸った。


——音が、始まる。


静かなピアノの旋律に、陽翔のギターが重なる。

最初はかすれた音。けれど、フレーズを重ねるごとに確かさを増していく。

リズムが合うたびに、観客のざわめきが少しずつ消えていった。

サビへ差しかかった瞬間、陽翔の歌声が響いた。

不器用で、真っ直ぐで、少し震えている。

でもその声は、誰よりも強く胸を打った。

(……届いてる。ちゃんと、届いてるんだ)

陽翔の視線が、ほんの一瞬こちらに向く。

その目には「奏と一緒に作った音を、今届けたい」という想いが宿っていた。

僕もまた鍵盤を叩きながら、全ての気持ちを音に変えた。

演奏が終わった瞬間、体育館は大きな拍手に包まれた。

歓声が波のように押し寄せる。

陽翔は息を切らしながらも、笑っていた。

「……やったな」

「うん」

拍手の音が遠く感じられるほど、隣にいる彼の存在だけが鮮明だった。


——そしてそのとき、客席の後ろで立ち尽くす高山の姿が目に入った。

彼は何も言わず、ただじっとこちらを見ていた。

拍手に紛れて、その瞳の揺らぎだけが、僕の胸に深く刻まれた。

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