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プロローグ

誰にも言えない気持ちを、音にすることしかできなくなった。

高校2年生の春、音楽室のピアノをぎこちなく弾くクラスメイト、瀬戸に心を奪われたかなで

何気ない笑顔、ふとした沈黙、指先の震え—。

すべてが旋律になって、奏の心に流れ込んでいく。


けれど、それは決して「好き」と言ってしまってはいけない想いだった。

言葉にすれば壊れてしまう。

だから、奏は自分の恋心を曲に変えて、そっと閉じ込めた。


これは声に出せなかった片思いの話。

君に届かないまま終わった、僕だけのラブソングじゃないラブソング。


それでも、僕はきっとあの日の音を一生忘れない。

「これは、君に届かないままの歌。」


卒業式の朝、最後の曲が完成した。


音楽室の窓から差し込む光が、白く、眩しかった。

この部屋で、僕は何度も君のことを思い出しては、旋律に変えていった。

君に直接伝えることはなかったけれど、

僕は確かに—君で曲を作っていた。


「あれ、まだいたんだ」


ドアの方から聞こえた声に、手が止まる。

いつものように軽い調子。でもそれが妙に苦しく聞こえた。


君だ。

最後に君が、来てくれた。

それだけで、胸の奥がじんと熱くなった。


「今日で終わりだな、高校生活」

「—あぁ」

「さみしい?」

「さみしくないって言ったら嘘になるかも」

いつもより少しだけ静かな声だった。

この空気を壊したくなくて、僕は無理に笑った。


「なぁ」

と、不意に君が言った。

「あの曲完成したの?」

僕は心臓がとまるかと思った。

伝えていないはずの気持ちを、音だけで悟られてしまったような気がして。


「うん、完成したよ」

「......ふーん」

「でも、誰にも聞かせない。—君にも」

そういった僕の声はきっと震えていた。

でもちゃんと本音だった。

これはラブソングじゃない。

想いを伝える曲ではない。


伝えないまま終わるからこそ、美しい。

苦しくて、どうしようもなくて、愛おしい。

そんな僕だけの片思いの旋律


君は少し黙って、こう言った。

「そっか、なんだかお前らしいな」

そして微笑んだ。


僕は、それをずっと覚えていると思う。

言葉よりも何よりもその顔を、

届けなかった曲よりも、その微笑みを。


鍵盤の上で、最後の音を鳴らした。

小さくて、でも確かに、僕の心を締めくくる音だった。


君のために作った曲はやっぱりラブソングにはならなかった。


でもそれでも良い。

僕は、君を好きだったんだ。

好きだったんだ—音にならない言葉でずっと。


初投稿です。

拙くて、まだまだ至らない点がたくさんあると思いますが、これから上達していきたいと思います。

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