海辺の旋律
星屑の旋律
夜の海辺。
潮の香りが、冷たい風に乗って漂っていた。
錆びついた倉庫の一角。
そこには、誰も使わなくなった古いピアノが置かれている。
鍵盤は黄ばんで、何度も潮風に晒されていた。
一枚の譜面が、譜面台に残されていた。
タイトルは「ほしのうた」。
ところどころ、涙のような染みが紙を滲ませていた。
椅子の上には、古びたマフラー。
色褪せた赤が、まるで時間に取り残されたように揺れていた。
かつてここでピアノを弾いていた少女は、病に倒れ、若くしてこの世を去った。
夢は音楽家になること。
でも、その旋律は最後まで完成することはなかった。
少年時代に彼女の音を聞いて育った青年が、今夜ひとり、この場所を訪れていた。
譜面を開く。
鍵盤に触れる。
海鳴りの中で、途切れた旋律が蘇る。
最後の小節には、震える字で書かれていた。
──「つづきを、あなたにたくすね」
青年は深く息を吸い、弾き始めた。
欠けた旋律は、彼の指で静かに繋がれていく。
奏でる旋律。静かな波音と重なり新たなハーモニーを生み出す。
止めてはならない。この楽譜が終わったときが最期だと思った。
──だからこそ、最後まで弾ききる。最期まで。
それが彼なりに考えた少女の「約束」だった。
涙は落ちてない。
ただ、音の余韻の中で、遠い誰かと確かにつながっていた。
海辺のピアノ。旋律はやまない。
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