友忘れノ章 第一話 友達
ここが新しい学校か…話には聞いていたが、ザ・田舎の学校という感じだ。まあここで立ち止まっていても意味がないので校内に入ることにした。上履きに履き替え、廊下を歩いていると、奥から2番目の教室から先生らしき人が出てきて、こちらへ少し小走りで向かってきた。
「あなたが崎山勇馬さんね。中・高等部担任の奥野あけみです。朝の会のはじめのときに崎山さんのことを話すので、それまで教室の扉の前で待っていてください。」
「わかりました。」
「では、お願いしますね。」
そう言って先生は教室の中へ入っていった。そして教室の扉の前に立つ。
「急ですが、今日転校生が来ます。」
そう先生が言った直後、クラス全体がざわざわし始めた。その雰囲気を扉の向こう側から感じていた俺は、こんな辺鄙な村に転校生などそうそう来るものではないのだろうなと思った。こちらとしても人生初の転校。少しの緊張感はあったが、それよりもわくわくしている気持ちの方が勝っていたように思えた。前の学校でも転校生はちょいちょい来ていたが、こんな気持ちだったとは。新たな発見をしてしまった。
「じゃあ、入ってきてください。」
言われた通りに扉を開けて教室の中に踏み込んでいく。この学校は少し特殊で、生徒数が少ないため初等部と中・高等部に分かれている。だから、今この教室には一般的な呼び名で言う中学1年生から高校3年生がいる。人数はだいたい10人ほど。また、ここが山奥の村だからなのか、妙に古い世界の空気が漂っている気がした。昔にタイムリープした気分。見慣れていない教室だからというのもあるのかもしれない。
「では、自己紹介をお願いします。」
先生にそう促され、緊張でガチガチに固まっていた口を開いた。
「えっと…隣町の北早苗から来た、崎山勇馬と言います。学年は中学3年です。よろしくお願いします…。」
まずは自己紹介のテンプレート的なことを言っておいた。信じられないほどに心臓がバクバクしていたので、一仕事終えた…と思った矢先、先生が
「何か崎山さんに質問がある人はいますか?」
と教室にいる生徒に向けて言い放った。おいおい何をしてるんだやめてくれないか。……まあ、さすがに中高生にもなって転校生の自己紹介に質問投げかけるやつなんていないよなと思った後すぐ、窓際の一番前の席のやつが手をあげた。「ああ終わった……」などと考えつつ、しかたなくそいつの次の言葉に耳を傾けた。
「好きな食べ物はなんですか?」
………。一瞬思考が完全に止まってしまった。質問が小学生すぎではないだろうか。言い方も小学生っぽかったし…まあ最悪そこはいいとして…見た目から察するに多分高校生だろう。しかも童顔なんてこともなく普通にかっこいい系なのに…なんだその質問と見た目とのギャップは。早速キャラが濃い人を見つけてしまった…と思いつつ、ちゃんと質問には答えることにした。
「オムライスです。」
「ありがとうございます!」
人生で初めて質問に答えただけで感謝されたな…とか思いながら他の質問が来るのを待った。いや、正確には来ないように願っていた、だな。
「……」
教室内に沈黙が流れる。少し嫌な空気。先生もこの空気から逃げたかったのだろうか、少し早口で
「崎山さんの席は月神さんの隣ね。窓側から2列目の一番後ろのところです。」
と、急に席の紹介をされた。先生と同じく早くこの空気から逃げたかったので俺は急いで自分の席に向かった。
自分の席に座ると、俺はすぐ隣の様子を伺った。月神と言っただろうか、可愛らしい女の子のようだ。髪は少し茶色っぽくて、長さは肩ぐらい。年は俺と同じか、もしくは下だな、などと考えていると
「こんにちは!!よろしくね!!」
と急に声をかけられた。あと、手をこちらに差し出している。握手でも求めているのだろう。一応初対面なのにそんなことよくできるな…と少し驚きつつ、俺は
「よろしくな」
と言って彼女の手に自分の手を重ねた。結構な力で握られたので、痛いなあと思ったが口には出さなかった。そんなことを言うとすぐに泣き出しそうなタイプだなと思ったからだ。偏見ではあるが。
「わたし、月神観往!仲良くしてほしいな…!」
どうやら月神観往というらしい。仲良くしない理由などないので、とりあえず
「ああ。仲良くしてくれ。」
と返しておいた。転校初日に友達でも作っておかないと多分俺の学校生活は終わる。だから、朝のうちにそう呼べる人ができて本当によかった。
朝の会が終わり、一息ついていると
「つきさーん!!」
と観往を呼ぶ声がした。観往は小学生たちから「つきさん」と呼ばれているらしい。
「あ、宮魅ちゃんと紗倉ちゃん!!入っておいでー!」
この学校は初等部と中・高等部を自由に行き来できるんだとさっき観往に教えてもらった。転校前の学校では、違う学年はもちろん、同じ学年の教室さえもよっぽどのことがない限り自分のクラス以外の場所には入れなかった。そんなところからもやっぱりここは田舎だなと思えた。
「「新しい転校生が来たって噂ですけど、誰なのですか?」」
いつのまにか観往の隣に来ていた二人が聞いた。そう来るだろうなとは内心思ってはいたのだが、いざその質問を聞くと少しビクッとしてしまう。これ紹介される流れか…とかなんとか思ったが、小学生の子とも仲良くできるいい機会かもしれないと感じたので、気にしないことにした。なにかがあってもそのときはそのときだ。数秒後の未来の自分が頑張ってくれるだろう。そんなことを考えていると、
「あ、転校生の子はね〜私の隣のこの子だよ!!!」
と観往がこちらを指さしてきた。やっぱりか…こうならない世界線はないんだな…さすがにこの状況で自己紹介をしないわけにはいかないので、しかたなく口を開いた。
「俺は崎山勇馬。中3だ。よろしくな。」
「勇馬って言うのですね。私は林川宮魅。小4です。よろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしく。んで、そっちの子は?」
「あたしのお名前は初瀬紗倉ですわ!!!宮魅と同じく小4。というか、子供あつかいはやめてくださる!?あたしは立派な小学4年生ですわよ!!」
「…………。」
「何か言いなさいよ!!」
「いや、あまりにもキャラが濃かったもんだからさ…」
「レディに失礼ですわよ!!ねえつきさん!」
「そうだね〜今のは勇馬くんが悪い」
「なんで観往まで…」
今の俺のどこが悪いというのだろうか。あくまで事実を言っただけなのに…女子の考えることは全くわからない。とはいえ、こうやって小学生の子とも交流を持てて良かった。一応言っとくが俺はロリコンじゃないからな?ただただ友達がほしいだけの善良な中3男子だ。
「あ、そういえば、俺の自己紹介のときに質問してたやつって誰なんだ?」
「僕のこと呼んだか?」
「おわぁッッッ!?!?」
「あはは!!勇馬が変な声出してますわ!!」
そりゃあ変な声も出すだろう。いつのまにか背後に人が立ってたら誰でも驚くはずだ。しかも急に話しかけられたんだから、俺の反応は絶対に正しいだろう。
「びっくりさせちゃってごめん…!!僕は林川宮人。このクラスでクラス長やってるんだ。」
「あと、私の兄様でもあるのです!」
「ああ、確かに苗字一緒だもんな。んで…なんて呼べば良い?年上だからさん付けの方がいいのか…?」
「宮人で全然大丈夫だよ!!!じゃあ僕は君のこと勇馬って呼ぶな。」
「りょーかい」
ついに年上にも友達になれそうな人ができた。転校初日ってこんな一気に友達が増えるんだな。そもそもここは人数が少ないからみんな友達だったりするのかもしれないが。今日のおかげでこれからの学校生活に眩しい光が差し込んできたように思えた。




