波止場の別れと、泡鳴へ続く道
旅立ちのときと同じ港町、アクアレーン。
再びこの地に足を踏み入れた瞬間、潮風の匂いと鳥の鳴き声が全身にまとわりついてきた。
まるで「おかえり」と言われているような気がする。
桟橋には、漁師たちが網を干し、屋台には揚げ物の匂いが漂っている。
焼けつくような西日が、海面を金色に照らしていた。
「やっぱり……この港町、好きかも」
わたし――大江山伊吹は、荷物を背負いながら深呼吸する。
「……今回の旅で、魚の味覚レベルが三段階ぐらい上がった気がします」
ミスティアが呟き、
「魚は良いけど、あのラム酒だけはもう……」
クラリスが頭を抱える。
確かに、ラム酒は……凄かった。
でもそのあとに口にした“八洲酒の話”は、まだわたしたちの心に火を灯している。
◆
「無事に帰ってこれたな」
バルゴ船長が腕を組みながら言う。
鯨骨号を見上げ、帆を撫でながら振り返るその笑顔は、どこか誇らしげだった。
「まさか本当に、八洲の“焼酎”を見て帰ってくるとはな」
「……うん。見た、というより、飲んで、倒れかけたけど」
「正確には“嗅いで気絶”だった」
「口に入れる前に沈んでましたよね」
ミスティアとクラリスの容赦ない追撃に、私はむくれ顔でそっぽを向いた。
「でも、ヤシロっていう酒剣の剣士と戦った。すごい戦いだったんだぞ」
「そのへん、あとでしっかり聞かせてもらうさ」
バルゴは笑い、肩を叩いてくれた。
「伊吹。お前、もうすっかり“酔いどれ旅団”の顔だな」
「えへへ……それ、褒めてる?」
「褒めてるとも。
それに――酒と旅と、仲間を大事にできる奴は、どこへ行っても生きていける」
まっすぐな言葉に、なんだか目頭が熱くなった。
◆
名残惜しさを残しつつも、わたしたちは《泡鳴区》への帰路につくことにした。
出発の前に、船長とクルーたちにそれぞれ別れの挨拶をする。
「バルゴ船長……本当にありがとう」
「船長のおかげで旅ができました」
「また、絶対一緒に航海しましょう。今度は……泡鳴区から出る“北の航路”もアリですね」
「お、おいおい、もう次の話か!」
わたしたちの旅に“終わり”はない。
ひとつの冒険が終われば、また次の杯が待っている。
「チューハイだっけ? 完成できるのか? 出来たら持ってこい、俺が飲んでやるよ!」
「うん! 八洲でヒントをもらった。酸味、香り、バランス――全部活かせる気がするんだ! 必ず完成させる」
わたしは腰の瓢箪《酔楽の酒葬》を撫でながら、
泡鳴の仲間たちに見せる“新しい酒の夢”を思い描いた。
◆
数日後、泡鳴区が見えたとき、クラリスがぽつりと呟いた。
「……帰ってきたわね」
「旅の終わりじゃない。チューハイづくり、……忙しくなるぞ!」
「……少しは休みましょう、伊吹さん」
「だよね……うん、ちょっとだけ!」
酔いどれたちの帰還を迎える街の音が、どこか懐かしくて、優しかった。




