海の幸とまずいラム
海魔を退けた夜。
甲板で船員たちが歓声と笑い声を響かせていた。
戦利品として回収した海魔の肉や、海上で捕れた珍魚が次々と並べられていく。
「すごい……! この魚、光ってる!」
クラリスが目を丸くする。
テーブルに置かれたのは、銀色に発光する“夜光魚”。
焼かれると淡い青白い光を放ちながら、香ばしい匂いを立ちのぼらせた。
「こちらは“甲羅鯛”だ! 殻を割ると中から白身がぎっしりだぜ!」
船員が威勢よく叫び、殻を斧で叩き割ると、中から湯気とともに瑞々しい魚肉が溢れた。
「……香りが甘い……!」
ミスティアは真剣な眼差しで身を箸でつまみ、口に運んだ。
「……ふわふわです。泡のように溶けてしまう……」
「よし、あたしも!」
わたしは夜光魚を頬張った。
「……な、なんだこれ……! 舌でほどけるのに、後から海の旨味がどばっと押し寄せてくる! 酒! 酒持ってこーい!」
「待ってました!」
船員たちが木樽を転がしてきた。蓋を外すと、濃厚な香りが立ち込める。
「名物、海の男のラム酒だ!」
「おおっ! ラム! ついに出たか!」
わたしのテンションは最高潮。腰の瓢箪からは出せない禁断の本物ラム……ここで飲まない理由がどこにある!
木製カップに並々と注がれた琥珀色。香りは甘く濃い。
「いただきまーす!」
ぐいっと一気に飲み干した――瞬間。
「……ぐふぉぉおおお!? に、苦ぇ! 臭ぇ! 甘いのに……なんだこの後味! 砂糖を焦がしたみたいな苦みと、靴の底みたいな匂いが混ざって……おえぇぇっ!」
思わず甲板に崩れ落ちた。
船員たちは豪快に笑い声を上げる。
「はははっ、嬢ちゃん、これが海の酒の味よ!」
「俺たちはこれで育ったんだ、最高だろう!」
「最悪だろうが!!」
涙目で叫ぶわたしを見て、クラリスは呆れ顔。
「学習しないね、伊吹は……」
一方、ミスティアはくすりと笑った。
「でも……伊吹さんらしいです」
◆
それから宴は続いた。
海魔の触腕を唐揚げにした“海魔カラアゲ”、中から熱いスープが溢れる“潮玉貝”。
どれも見たことのない料理で、口に運ぶたびに驚きと歓声が広がった。
「……これ、酒がまともなら……最高の宴なんだがなぁ」
わたしは泣き笑いしながら、また魚を頬張る。
潮風と焚き火の匂い、船員たちの歌声に包まれて――。
航海はまだ続くが、今夜だけは戦いを忘れて、酒と海の幸に酔いしれたのだった。




