迎え酒と、目覚める力2
「ちょっと伊吹、落ち着きなさいって!」
興奮で飛び跳ねていた私の肩を、クラリスがぐいっと掴んで引き止める。
「迎え酒しただけでなんでそんなテンションになるのよ……」
「いや、これ、私の能力なの。酒を飲むとパワーアップするの。たぶん!」
「“たぶん”ってなに!? 未知数すぎるでしょ!」
クラリスは呆れたようにため息をついた後、ふと自分のジョッキに目を落とした。
まだ、半分ほど残っている黄金色のビール。
彼女はそれを持ち上げて、眉をひそめる。
「……でも、確かにこれ、おいしいかも。見たことない色だし」
「でしょ!? 飲んで飲んで!」
「……ま、いいか。乾杯」
そう言って、クラリスはくいっと残りを飲み干した。
一瞬。
「…………あれ?」
彼女の表情がピクリと引きつった。
「ん……あ、あつっ……なんか、身体が、変……」
クラリスの頬が一気に赤くなり、汗がじわっと噴き出してくる。
「ちょ、ちょっと伊吹!?これ、なに……なんかすごい回ってきたんだけど……!?目が、回る……心臓が、バクバク……」
「まさか……クラリス!?まさかまさか……」
「うわあああああ!?服がッ、暑いぃぃ!!脱ぐ!ちょっと脱がせてぇぇぇえ!!」
「ダメダメダメダメ!貴族の品格が崩壊してるってばぁぁ!!」
バタバタ暴れるクラリスをなんとかベッドに押し倒して布団でぐるぐる巻きにする私。
その様子は、まるで異常状態に陥ったNPCのようだった。
「……これ、毒だ」
静かに確信した。
「異世界の人にとって、私の作った酒は……毒ッ!!」
頭を抱える私の横で、クラリスはくたっと放心状態。
「うぅ……やばい……もう誘われても飲まない……飲まないから……」