表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に酒税法は存在しねぇんだよぉぉぉ!!  作者: ヒオウギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/144

蒼森の幻影② ―苦戦と突破口―

 蒼光の狼が咆哮した瞬間、森そのものが敵に変わった。

 樹々は軋み、地面は揺れ、青白い靄が波のように押し寄せる。

 何重にも分かれた幻影の群れが、わたしたちを取り囲んでいた。


「多すぎる……っ!」


 クラリスの剣が横薙ぎに走り、二体の狼影を薙ぐ。

 だが切り裂かれたはずの体は霧散し、すぐに再び輪郭を持った。


「これじゃキリがないです!」


 ミスティアの《泡沫魔法・零式:エアボム》が炸裂し、炭酸の衝撃波が周囲を揺らす。

 だが幻影は泡をすり抜け、笑うかのように揺らめく。


 わたしは舌打ちして瓢箪を握った。

 辛口の白ワインを喉に流し込む。


「《直感強化・ブランフォーム》!」


 世界の揺らぎが研ぎ澄まされる。だが幻影の数が多すぎて、すべてを捉え切れない。

 さらに狼の群れが同時に襲いかかってきた。


「くっ……!」


 咄嗟に金棒を構えるが、左から迫った顎に対応しきれない。


 ――ガキィン!

 クラリスが割って入り、盾のように剣を構えて衝撃を受け止めた。


「伊吹、集中を切らさない!」


「わかってる……!」


 しかし、避けたつもりの一撃が頬をかすめる。

 血の代わりに、熱を帯びた酔気が滲み出した。

 ……違う。これも幻覚か? 本当に傷ついているのか?

 視界が霞み、判断が鈍る。


「……っ、笑えねぇ……」


 その隙を突くように、蒼森獣の本体が飛び出した。

 黄金の瞳が目前に迫り、顎が金棒ごとわたしを噛み砕こうと迫る――。


「伊吹ッ!!」

「伊吹さんッ!!」


 クラリスとミスティアの声が重なる。


 瞬間、泡の壁が弾けて狼を押し返した。

 ミスティアが必死に杖を振り、クラリスがわたしを引き寄せる。


「しっかりして! 伊吹が酔いに呑まれたら終わりよ!」


「……っあぁ、ごめん……!」


 胃の奥が焼ける。

 だが、このままじゃやられる。

 頭を振り払い、もう一本の酒を流し込む。泡立つ炭酸の甘苦さが喉を満たす。


「《跳躍上昇・ブリュットフォーム》!」


 足に軽さが戻る。

 わたしは木々を蹴り、宙を飛んで幻影の外へ抜け出した。

 そこから見渡す――。


 気づく。

 狼の群れは無数に見えるが、泉に落ちる影を作っているのはたった一体だけ。


「……いた……ッ!」


「クラリス! ミスティア! 真ん中だ! 泉の中心に影を落としてる!」


「「了解!」」


 二人の声が同時に返る。


 クラリスは剣を大きく振りかぶり、《閃律剣・クロッカ》の蒼光を纏う。

 ミスティアは泡沫を渦にして杖を構えた。


 わたしは宙から金棒を振り下ろす。

 三人の軌跡が交差し――


 ズドォォォンッ!!


 直撃。泉の水柱が弾け、幻影が一気に霧散した。

 蒼森獣が苦鳴をあげ、初めてよろめく。


「通じた……!」


「今のが突破口です!」


 まだ決定打には届かない。

 だが、道は見えた。

 幻惑に翻弄されるだけじゃなく、泉の影を見極めれば必ず倒せる――!


「よし……三人で決めよう。次は仕留める!」


 わたしの声に、仲間たちが力強く頷いた。


 青白い靄がまだ渦巻く。

 だがもう、酔いどれ旅団の目は酔気に濁らず、獲物を真っ直ぐ射抜いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ