表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に酒税法は存在しねぇんだよぉぉぉ!!  作者: ヒオウギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/145

ノアさんちの夕餉

 泡鳴区の拠点に戻ったわたしたちは、リビングの大きなテーブルに腰を下ろしていた。

 キッチンにはノア。白いエプロンを翻し、火加減を魔法で操りながら包丁を動かしている。


「……落ち着け。もう少しで出来る」


 相変わらずの無愛想ぶり。

 でも漂ってくる香りは、わたしたちの胃袋を完全に支配していた。


「ノアの料理って、香りの時点でご飯三杯はいけるんだよな……」


「伊吹、まだ一口も食べてないから」


 クラリスがツッコむ。


「……でも、確かに匂いだけで美味しいです」


 ミスティアはすでに目がとろんと半分夢見心地だった。


 ほどなくして――。


「できた」


 ノアが盆を持って現れる。


 テーブルに並んだのは――

 ・鹿肉のロースト:表面は香ばしく、中はほんのり赤みを残した絶妙な焼き加減。

 ・山芋と香草のグラタン:こんがり焼けたチーズがぷつぷつ音を立て、スプーンを入れると白い湯気があふれる。

 ・川魚のハーブ焼き:皮はパリッと、香草とレモンに似た果実で香り付け。

 ・石窯パン:外はカリッ、中はふんわり。焼き立てでまだ熱い。


「……っはぁああ! これこれこれぇ!」


「伊吹、声とよだれが大きい!」


「……本当に美味しそう」


 三人揃って箸を取った。


 まず鹿肉を口に運ぶ。

 ――じゅわっ。

 歯を入れた瞬間、肉汁が弾け、香草の香りがふわりと鼻を抜ける。

 肉の甘みと香ばしい焦げ目のバランスが完璧で、噛むごとに旨味が広がる。


「うっま……! これ、もう酒が欲しいやつだ」


「顔が酔ってるわよ」


「料理だけで酔える……これは新しいですね」


 続いてグラタン。

 スプーンですくえば、糸を引くチーズの下から熱々の山芋が現れる。

 ホクホクの食感と香草の爽やかさが混ざり合い、口の中で小さな祝祭が起きた。


「……これ、飲まずにはいられない」


 わたしは机の端に置かれていた異世界酒の瓶を掴んだ。


 黄金色の液体をジョッキに注ぐ。泡が立ち上り、見た目だけは最高。


「かんぱーい!」


 三人で声を合わせて飲み干す――。


 ……次の瞬間。


「ぐぇ……! 相変わらず薄いのに苦ぇ!」


「女の子の顔じゃない……!」


 クラリスも眉をひそめてジョッキを置く。


「……薬草の煮汁に似てますね。苦みと酸味が喧嘩していて……」


 ミスティアも淡々と毒舌を吐いた。


 ノアは腕を組んでこちらを見下ろし、鼻で笑った。


「……こっちの酒はだいたいこんなものだ」


「でもなぁ……料理が美味すぎるから、逆に酒のマズさが際立つんだよな」


「飲む量は控えてよ」


「無理! この肉にこのパン、酒なしじゃ無礼だろ!」


 まずい酒に顔を歪めながらも、料理に舌鼓を打ち、次のひと口を求める。


 結局わたしたちはジョッキを何杯も空け、ノアの料理を平らげた。


「……やっぱり、ノアの飯は最高だ」


「ふん。当たり前だ」


 そう言いながら、ノアは皿を片付けていく。

 相変わらず無駄がなく、けれどどこか満足げにも見えた。


 その夜。

 美味い料理とまずい酒に囲まれ、笑い声が拠点に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ