迎え酒と、目覚める力1
「うぅ……頭痛い……気持ち悪い……」
ベッドの上でうなっていると、クラリスがふと、私の腰の瓢箪を手に取った。
「ねえ、これには何が入ってるの?」
「……お酒」
「それじゃあ――迎え酒する?」
「……神か?」
私は半ば本気で拝みながら、瓢箪をクラリスに差し出す。
クラリスはクスッと笑い、宿のグラス――いや、ジョッキをふたつ用意して、注ぎ始めた。
瓢箪の口からは、きめ細やかな泡を立てた琥珀色の液体が、なみなみと流れ出ていく。
最高の音だ……。
黄金の恵みが、今この瞬間に私の魂を潤そうとしている。
「これは……ビール?ていうか、クラリスさん、飲むの?」
「昨日のあんたに付き合って、けっこう飲んだのよ。頭痛いし、朝から飲みたくないけど……まあ、冒険者の常識ってことで」
「迎え酒は、すべてを救う……!」
「はい、かんぱい」
「乾杯――ッ!!」
ごくごくごくっ……!
飲んだ――飲んだぞ……!
身体が、あったまる。血が巡る。テンションが……上がってくる……ッ!
「うおおおおおお!! 回復したああああああ!!」
「!? ちょ、なにその元気!?」
ベッドから飛び上がる私に、クラリスが目を丸くする。
「身体が軽い! 視界が明るい! なんか……知らないけど、めちゃくちゃ元気になったー!!」
「いやいやいや、さっきまでうんうん唸ってたじゃない!」
「これが――これが酒バフか……ッ! 酒こそ命、酒こそ力!!」
頭の中に鐘が鳴るような感覚。
なんだこのテンション、止まらない……!
「……やばい、あんたマジで酔ってるでしょ?」
「酔ってるよ!? でもそれがいい!!」
私は素足で床を蹴り、意味もなくその場で回転してからジョッキを高く掲げる。
「異世界最高ーーッ!!」
「……ああ、面倒な子と組んじゃったかも」
クラリスは額に手を当ててため息をついたけれど、どこか楽しそうだった。