泡鳴神殿 ― ガーディアン戦・決着
視界が揺れる。
全身が鉛のように重く、心臓の鼓動さえ酒精に呑まれてふらつく。
わたしは金棒を支えきれずに膝をついた。
「……伊吹!」
クラリスの声が遠く聞こえる。だが彼女も同じだ。
剣を杖のように支え、息を切らしている。
「……頭が回らない……でも、まだ……!」
「……負けません……」
ミスティアも唇を噛みしめていた。
杖の先端に集めた炭酸の泡が暴発し、彼女の頬をかすめて弾ける。
酔いが魔法すら乱していた。
ガーディアンが腕を振り上げる。
広間に響く轟音、琥珀色の閃光。
――このままじゃ、全員酔い潰されて終わる。
(ダメだ……こんなところで潰れてたまるか……!)
わたしは瓢箪を握りしめる。
喉に注ぎ込むのは、泡立つ黄金――白ビールの軽やかな一口。
「《俊敏上昇・ホワイトフォーム》……!」
視界が一瞬だけ澄む。
心臓がひゅっと軽く跳ね、足に再び力が戻る。
その瞬間、クラリスの蒼い瞳と重なった。
「伊吹……やれる?」
「やるしかない!」
クラリスはフェリシアを構え直す。
蒼の旋律が再び彼女の剣に宿る。
同時に、ミスティアが震える声で叫んだ。
「……合わせてください……私が道を拓きます!」
杖を掲げる。
「《泡沫魔法・穿突:スパークリングスピア》――拡散!」
一本の槍が無数の泡へと弾け、ガーディアンの正面に閃光の雨を降らせる。
琥珀の腕がそれを防ごうと動いた、その刹那――。
「いまだ、伊吹ッ!」
クラリスの声に合わせ、わたしは再び赤い液体をあおる。
濃密で甘美な熱が血を焦がす。
「《力上昇・クリムゾンフォーム》!」
爆発するように筋肉が軋み、《酔鬼ノ号哭》が羽のように軽くなる。
踏み込む一歩が、岩を割る。
「おおおおおッ!!」
クラリスの剣が閃き、ミスティアの炭酸が核の防壁を裂く。
わたしの金棒が、全力の咆哮を上げて振り下ろされる。
「――《連携奥義・酔泡斬槌》ッ!!」
酒気と旋律と泡沫が重なり、衝撃が核へ直撃した。
轟音。
閃光。
そして――砕け散る琥珀の輝き。
ガーディアンが低く呻き、巨体が崩れ落ちていく。
琥珀の光が霧散し、ただの石と化して広間に砕け散った。
「……やった、の……?」
クラリスが剣を突き立て、膝をつきながら呟く。
「……ええ。核の反応、消えています……!」
ミスティアが震える声で告げた。
わたしはその場に倒れ込み、酒気の残滓に包まれながら笑った。
「ひは……はは……! 勝った……酒に勝ったぞ……!」
三人とも、限界まで酔い、限界まで戦った。
だが、砕いたのは確かに――わたしたちの連携だった。
広間の奥、なおも漂う琥珀色の光が、次なる道を照らしていた。




