表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に酒税法は存在しねぇんだよぉぉぉ!!  作者: ヒオウギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/145

泡鳴神殿・ガーディアン出現

 ――低い振動音が広間を満たした。

 石台を囲む文様から溢れ出した光が、じわじわと形を取っていく。


 床の石が震え、粉塵が舞い、わたしたちの足元までひび割れが走った。

 琥珀色の光が集まり、絡み合い、まるで液体が固まっていくように輪郭を作り始める。


「……これは……」


 ミスティアが杖を構え直す。彼女の声には恐れよりも驚嘆が滲んでいた。


「酒気そのものが……形を持ち始めてる……?」


 やがて現れたのは――巨人。

 高さ5メートルを超える、琥珀の結晶を寄せ集めたような体躯。

 全身は半透明で、中を揺らめく液体のような光が脈動している。


 顔にあたる部分は空洞で、そこにたゆたうのは黄金の泡。

 見るだけで酔いが喉奥にこみ上げるような、圧倒的な存在感だった。


「……もう一体のガーディアン……伝承酒を護る本物の守護者……」


 ミスティアが低く呟いた。


 その瞬間、広間全体に「ゴウッ」と酒気の風が吹き荒れる。

 鼻を突くのは、熟成されたウイスキーのような甘く焦げた香り。

 空気を吸い込むだけで肺が熱を帯び、視界が揺れる。


「うぅっ……やば……これ、立ってるだけで酔う……!」


 わたしは金棒《酔鬼ノ号哭》を地面に突き刺し、必死に気を保つ。


「伊吹、気をしっかり! こいつ……普通の魔物とは違う!」


 クラリスがフェリシアを構える。瞳は鋭いが、額には早くも汗が滲んでいた。


 ガーディアンが腕を振るう。

 その軌跡から弾け飛んだのは、液体化した琥珀の破片。

 床に触れた瞬間、蒸気のような酒気が噴き出し、酔いの波を広間に広げていく。


「くっ……《泡沫魔法・零式:エアボム》!」


 ミスティアが咄嗟に炭酸の膜を展開。

 しゅわしゅわと立ち昇る泡が酒気を押し返し、ほんのわずかに視界が確保された。


 だが――。

 ガーディアンはその泡を無視するように、ずしん、と歩を進めてくる。

 床石が割れ、酒樽を叩くような低い轟音が響いた。


「……こいつを超えなきゃ、あのお酒には辿り着けないってわけね」

 

 クラリスが歯を食いしばり、剣を構え直す。


「いいじゃん……! 飲みたきゃ戦えって、酒神らしい試練だ!」


 わたしは笑い、瓢箪を傾ける。


 赤い玉のように濃い葡萄酒を喉へ流し込む――甘い熱が血を駆け上がる。


「《力上昇・クリムゾンフォーム》!」


 全身が灼けるように熱くなる。

 重いはずの《酔鬼ノ号哭》が、腕に馴染むように軽く感じられた。


「いくぞ……!」


 わたしの声を合図に、三人は同時に動き出した。

 琥珀色の巨人との死闘が、いま幕を開けた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ