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異世界に酒税法は存在しねぇんだよぉぉぉ!!  作者: ヒオウギ


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泡鳴神殿・再挑戦 導入

 ――二日酔い地獄と補給の日々を抜け、さらに模擬戦で汗を流して数日。

 わたしたちはついに再挑戦のときを迎えていた。


 泡鳴神殿へと続く石畳の道。

 昼下がりの空は灰色がかっていて、雲の切れ間から差す光すらどこか鈍い。

 周囲の森もざわめきが少なく、虫や鳥の声が薄い。

 まるで「これ以上進むな」と森そのものに拒絶されているみたいだった。


 けれど、わたしたちの足は止まらなかった。

 前に潜ったとき、酒気に酔わされながらも確かに見た“琥珀色の光”。

 あれがただの気のせいであるはずがない。


「……重苦しいわね。森の空気まで酒臭いような気がする」


 クラリスが剣の柄にそっと手を添えながら、眉をひそめた。

 彼女の横顔はいつも通り冷静に見えるけど、薄く汗が滲んでいる。


「前回の酩酊霧に比べればまだ軽いですが……魔力の流れが乱れてますね」


 ミスティアが杖を握り直し、杖先に淡い光を灯す。

 緑がかった光が波紋のように揺れ、霧の濃淡を照らし出す。


「神殿から漏れ出しているのは、ただの湿気ではありません。……酔いの気配そのものです」


「だよねぇ。わたしの鼻も、もう酒場に入ったみたいにむずむずしてる」


 わたしは背中の金棒《酔鬼ノ号哭》を軽く持ち上げ、腰の瓢箪《酔楽の酒葬》を叩いた。

 中で酒がぴしゃりと跳ねる音がした。まるで「早く飲め」と急かしているみたいだ。


 石段を踏みしめて進むごとに、風が湿り気を増していく。

 壁の割れ目からは、あのときと同じ――いや、それ以上に濃い、琥珀色の光が滲んでいた。


「……やっぱり、あるね」


 わたしが声を漏らすと、クラリスとミスティアも同時に立ち止まった。


「ただの鉱物発光……では説明できないわね」


 クラリスが低く言う。

 彼女の声が石の壁に反響し、不思議な残響を生んだ。


「魔力の質が違います。これは……生命というより、時間に近い」

 

 ミスティアが小さく呟き、指先で光の流れをなぞった。


 わたしの胸がドクンと跳ねる。

 前回の戦いで全力を出し切ってもなお、この奥に“何か”が残っている――そう考えるだけで、血の代わりに酒が全身を駆け巡るような高揚を覚えた。


「伊吹、顔がニヤけてる」


「え、そう? だって……わくわくしない?」


「危険のにおいしかしないんですけど」


「わたしも同意見です。……でも、進むのでしょう?」


 クラリスとミスティアの視線を受けて、大きく頷いた。


「決まりだよ。わたしたちは酔いどれ旅団。進む先に酒の匂いがあるなら、それが罠でも宴でも、行くしかない」


 三人は短く呼吸を整え、それぞれの武器を構える。


 クラリスは《閃律剣・フェリシア》を腰から抜き、ミスティアは杖を胸の前に掲げる。


 わたしは金棒《酔鬼ノ号哭》を背中に担ぎ直し、瓢箪を片手で押さえた。


 重厚な扉の前で、わたしたちはしばし黙り込む。

 空気がぴんと張り詰めて、息を吸う音すら響いてしまうほどだった。


「――行くよ」


 扉を押し開けると、冷たい空気とともに、かすかな焦げ木の香りが流れ込んできた。


 湿り気のある石畳の先には闇と、そして淡く揺らめく琥珀色の光。

 その奥にまだ知らぬ試練が待っている。


 わたしたちは一歩を踏み出した。

 酔いの残滓に揺れる神殿の奥へ――。


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