訓練編:模擬戦と新連携技
泡鳴区の拠点裏。
小さな広場を訓練場にして、私たちは模擬戦を始めようとしていた。
「……さて。ここで一度、戦い方を整理しておきましょう」
杖を軽く構えながら、ミスティアが冷静に提案する。
「そうね。あの神殿じゃ、完全に酔いに振り回されてたし……このままじゃ次の挑戦で潰れる」
クラリスは剣を腰に下げ、いつも通りの真面目な顔。
「大丈夫大丈夫! 私には――ほら、これがあるから!」
私は腰の瓢箪《酔楽の酒葬》を掲げる。
「……だから、それが問題なのよ」
クラリスの冷たい視線が刺さる。だが、気にしない。
ビール系バフのテスト
「まずは《俊敏上昇・スプリントフォーム》から!」
銀色のラベルを思わせる切れ味のあるビールを注ぎ込み、ぐいっと飲み下す。
瞬間――全身が軽くなる。心臓の鼓動が加速し、視界が広がった。
「うぉっ、来た来た! 走るぞーっ!」
私は地面を蹴り、クラリスの目の前に駆け込む。彼女の剣先がわずかに揺れた。
「……速すぎ! 本当に反応できない!」
「でも、持続は短いですね。二十秒もすれば切れます」
ミスティアが淡々と分析を入れる。
ワイン系バフのテスト
「次は――《力上昇・クリムゾンフォーム》!」
瓢箪から濃い葡萄酒をあおる。
赤い玉のような甘みと重さが喉を滑る。
どん、と地面を踏みしめた瞬間、身体の芯から力が湧いた。
「よっしゃあ! 喰らえぇぇ!」
背中の金棒《酔鬼ノ号哭》を振り下ろす。
クラリスがフェリシアで受け止めるが――
「ぐっ……っ! 伊吹、押し負けないでよ!」
「いや、もう……腕が痺れる……!」
剣と金棒の衝突で火花が散った。
「……力はすさまじいですが、動きが荒すぎます。クラリスさんへの負担が大きい」
ミスティアの冷静なコメントが飛ぶ。
新連携技の試行錯誤
「じゃあ、合わせ技! ミスティア、お願い!」
「わかりました。《泡沫魔法・滑層:スリップフォーム》」
炭酸泡が地面を覆い、足元が滑る床に変わる。私はその上を勢いよく滑走。
「《酒技・酔乱槌》ッ!」
滑走の勢いを乗せて金棒を振り下ろす。
「っ……なるほど。突進力が段違いね」
クラリスがぎりぎりで身を翻し、背後に回り込む。
「《閃律剣・ラピス》!」
蒼い斬撃が走り、私の金棒と交差するように地を裂いた。
酒と炭酸と剣撃――三つの軌跡が交わり、爆ぜる。
「……これは強い。けど、制御できるかが問題ね」
クラリスが息を整えながら言う。
「伊吹さんが暴走しなければ、かなり有効です」
ミスティアが頷く。
「暴走って……うん、まぁ、否定はできない」
私は頬をかきながら笑った。
でも確かに――これが形になれば、次はもっと上を狙える。
「次の挑戦は……絶対に勝つ。そのために飲んで、酔って、強くなる!」
「……酔わない方法も考えてほしいんだけど」
クラリスのツッコミで、訓練はひとまず区切られた。




