出発前夜:選ばれる銘柄、迷える舌先
翌夜、拠点のリビング。
テーブルの上に並んだのは、私の瓢箪《酔楽の酒葬》から注がれた数種類のお酒。
透明なグラスに黄金、琥珀、乳白……色とりどりの液体が光を受けてきらめいている。
「……なにこの光景」
クラリスが眉をひそめる。
「まるで、酒屋を丸ごと再現したみたいですね」
ミスティアが淡々と呟く。
「違う違う、これはテストだよ! ほら、今回の“酩酊地帯”に挑む前に、どの酒バフが一番使えるか検証しとこうってわけ!」
私は胸を張って宣言した。
「……その顔がすでに酔ってる」クラリスの冷たい突っ込みが飛ぶ。
◆銘柄その1:黒い泡
最初に注いだのは、黒々とした泡を持つ濃厚ビール。
香ばしい焙煎香が鼻を突き抜ける。
「黒ビール系ですね。苦みが強そうです」
ミスティアが観察する。
ひと口。舌にじんわり広がるのは、深く焦げた麦芽の味。喉を通ると――
「おお……! 筋肉にズシンとくる。力系だ! 《剛力上昇・スタウトフォーム》!」
「……名前、いちいちつけるの?」
クラリスが呆れ声を上げる。
◆銘柄その2:白い泡
次は乳白色の液体。柑橘系の香りがふわっと漂った。
「これは……爽やかですね」
ミスティアが鼻を近づける。
「白ビール系。軽くて飲みやすいやつ!」
ひと口で喉を滑り抜け、身体がふわっと軽くなる。
「きた! これは《俊敏上昇・ホワイトフォーム》だ!」
「……速さ重視ね。でも伊吹、飲み比べでバフ重ねたらただの泥酔だから」
クラリスがジト目で釘を刺す。
◆銘柄その3:琥珀の香り
最後に琥珀色の液体を注ぐ。
強い柑橘と苦みが混じった、鋭い香り。
「これは……刺激的ですね」
ミスティアが興味深そうに覗く。
「そう! IPA系! 苦みと香りが強烈で、飲むと……」
ひと口で舌が痺れ、視界がぎらぎらと冴える。
「集中力アップ! これは《感覚強化・ビターエールフォーム》だな!」
「……でも、使いどころ間違えたら味覚も麻痺しそう」クラリスが冷静にツッコむ。
「なるほど……お酒によって能力の系統が違う、と」
ミスティアはメモを取りながら頷いた。
「だからこそ、ちゃんと選ばないといけない。戦略の幅が広がるのは確かね」
クラリスも腕を組む。
私はにやっと笑い、残ったグラスを一気に飲み干した。
「つまり! 今の私は、《スタウトフォーム》《ホワイトフォーム》《ビターエールフォーム》のトリプルバフ状態!」
「それ、単にベロベロに酔ってるだけじゃ……」
「明日歩けるか心配です」
クラリスの呆れ声とミスティアのため息が同時に落ちる中、私はリビングのソファで大の字になった。
天井がふらふら揺れている。
……でも、最高に気分はいい。
「ま、どの酒でも勝てるってこと! 酩酊地帯? 上等じゃん!」




