表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に酒税法は存在しねぇんだよぉぉぉ!!  作者: ヒオウギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/144

ドワーフとの戦い 〜戦いは酒の香りと共に〜

 グラン=バルムは腰の樽を置き、代わりに肩のハンマーを構えた。


 その瞬間、鉱山の入口の空気が一気に張りつめた。

 周囲の岩肌が低く響き、金属音がどこか遠くでこだまする。


「人間。口じゃなく腕で証明しろ」


「望むところだ!」


 私は背中の《酔鬼ノ号哭(すいきのごうこく)》を引き抜いた。

 鉄塊にも見える金棒が地面を擦り、火花を散らす。

 

クラリスが一歩下がり、「……無茶はしないでよ」と呟くが、もう遅い。

 血が騒いでいる。いや……酒が騒いでいる。


「で、どっちが先に動くの?」


「……こういうのは――先手必勝だ!」


 グラン=バルムが地を蹴った瞬間、岩壁がどん、と震えた。

 低い体勢から放たれる突進は、まるで小型の戦車。

 ハンマーの一撃が、地面を抉り、土煙が舞い上がる。


「おっとと……! さすがドワーフ、パワーやべぇ!」


 私は後方へ飛び退き、腰の瓢箪を掴む。


 瓢箪を開く、中にはどろりと濃く赤い液体だ。

 光を透かすと、真紅というよりは深紅――熟した葡萄を煮詰めたような濃さ。

 

 鼻を近づければ、甘く芳醇な香りが鼻腔を満たす。

 ――そう、赤い玉のように濃く甘い、葡萄酒。ワインだ!


「……それは、かなり古い酒だな」


 グラン=バルムの声がわずかに低くなった。


 一口――舌に乗った瞬間、蜜のような甘さが広がり、喉を抜けると同時に熱が駆け上がる。

 全身を駆け巡るのは、甘美な熱と鼓動の加速。


「《力上昇・クリムゾンフォーム》――発動!」


 次の瞬間、血管を駆け抜けた熱が筋肉に火を灯す。

 金棒《酔鬼ノ号哭》の重みが羽のように軽く感じられた。

 足裏が岩を踏みしめるたび、地面がわずかに沈む感覚すらある。


「……ほう、目つきが変わったな!」


 グラン=バルムがニヤリと笑い、ハンマーを大上段に構える。


 ――ドンッ!


 互いの武器がぶつかった瞬間、岩肌が悲鳴を上げた。

 衝撃で砂埃が舞い上がるが、私はそのまま押し切る。


 酒が燃料になって、一振りごとに力が増していく。


「ぐっ……重い!!」


「これが――酒の力だッ!」


 押し返されたグラン=バルムの瞳が、一瞬、驚きに見開かれ、そして笑みに変わった。


「……面白ぇ! そんな酒の使い方、見たこともねぇ!」


「酒は力! 人生の燃料!!」


「気に入ったァ!」


 私は金棒を肩に担ぎ、ニヤリと笑い返す。


「じゃあ、仲良くなるしかないな。あんた、絶対いい酒持ってるだろ」


「ははは! 決まりだ、人間! この勝負のあとは、俺の樽を開けようじゃねぇか!」


 ――こうして、戦いは宴の始まりに変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ