森の中の火
日が傾き始めた森の中。
私たちは、レイリナが仕留めた大きな木の実を背負い、彼女の仮の狩り拠点までついて行っていた。
「……ついてくる理由は?」
「いや、だって美人エルフと別れるなんてもったいないじゃん」
「伊吹……」
クラリスが呆れた目を向けてくるが、私は意に介さない。
ミスティアは小声で「……否定はしません」とか言ってたし。
焚き火がぱちぱちと音を立てる。
レイリナは木の実を串に刺し、火の上でゆっくり回していた。
甘い香りが漂ってきて、お腹が鳴る。
「……ほら、食べるか?」
「いいの?」
思わず前のめりになると、レイリナは眉をひそめた。
「変な真似はしないこと。耳を引っ張るとか」
「しないしない! したいけど!」
「伊吹!」
クラリスの手刀が飛んでくる。危ない危ない。
串から一口。
外はカリッ、中はとろりと甘い。栗に似てるけど、香ばしさが段違いだ。
「……うま……。これ、何?」
「“森の雫の実”。集落じゃ子供のおやつだな」
「これでおやつ……? この世界、やっぱポテンシャル高いな……」
レイリナは、そんな私を横目で見て、ふっと小さく笑った。
焚き火の明かりで、その翡翠色の瞳がやわらかく揺れる。
「……あんた、酒臭いけど、悪い奴じゃなさそうだ」
「でしょ?」
「……今夜は集落に泊まっていけ。うちの料理も食わせてやる」
「マジで!?」
「うるさい。声が響く」
こうして、私たちはエルフの集落へ足を踏み入れることになった。




