ようこそ、我が酒空間へ
「よいしょ、っと……この棚、もうちょい右!」
「そっちは冷蔵箱の邪魔になるだろ。あと十センチ左寄せて」
「はい、止まってください。そこで完璧です」
家具屋の配送チームが帰ったあと、拠点はちょっとした引っ越し二日目モード。
届いた家具を組み立てたり、配置を微調整したりで、朝から晩までドッタンバッタン大騒ぎだった。
でも、ようやく……
「――完成ぃ!」
私はリビングのど真ん中で、ガッツポーズを決めた。
ソファは窓際に。中央のテーブルには、さっそく“おつまみ棚”が鎮座。台所の片隅には、私のためだけの「冷え冷えビール棚」まである。完璧だ。完璧すぎて泣ける。
「……まるで“酒飲みの巣”ね」
クラリスはあきれ顔で棚の高さを確認しながら、ふかふかの座布団を床に敷いていく。
「伊吹さん、この小瓶類は……一応、ラベルを貼っておいた方がよろしいかと」
ミスティアは真剣な顔で調合棚を整えている。彼女の“炭酸水管理エリア”はやたら整然としていて、冷却箱の中にはすでに炭酸水がずらりと並んでいた。
(……もう完全に“拠点”だ)
私は感慨深く、リビングをぐるりと見回す。
昨日までただの空き家だった場所に、自分たちの暮らしの匂いが染み込んでいく。この空間が、今の私たちの“居場所”になるんだなって、ちょっとだけ胸が熱くなった。
「――で、どうする? この流れで乾杯する?」
「昨日は飲まなかったし、さすがに今日は……って顔してるね、伊吹」
「え、何でバレた?」
「顔に“飲ませろ”って書いてあるのよ」
「やめてください、伊吹さんは未だ“軽めの断酒期間”中です」
「ぐぬぬ……炭酸水で我慢するか……」
「我慢じゃないの、回復なの」
そんなこんなで、夜はささやかな“炭酸水&ジンジャーティーで乾杯会”になった。なんか健康的だな、我ら《酔いどれ旅団》。
*
翌朝。
玄関をノックする音が響いた。
ドアを開けると、そこには見覚えのある人物――ギルドの受付嬢、ミナさんが立っていた。
「あっ、ミナさん! 引っ越し祝いのお酒持って……ない!?」
「おはようございます~。今日は“おしごと”で来ました~!」
相変わらずのふんわり笑顔で、ミナさんは茶封筒を取り出す。
「実はね、伊吹さんたちへの推薦依頼が届いてるの。前回の魔草討伐で、炭酸水魔法が話題になってて~。ちょっと特殊な案件なんだけど……どうかな?」
私とクラリス、ミスティアは顔を見合わせる。
「推薦依頼ってことは、少し難易度が上がるってこと?」
「でも、“酔いどれ旅団”に指名が来るって……ちょっとカッコよくない?」
「挑戦の価値はありそうですね。内容次第ですが……」
「じゃ、受けよう! だって、私たち――」
私は親指で自分を指し、
「“酔って強くなる系”パーティーだから!」
「……そろそろ真面目に行動方針考えようか、団長」




