家具と夢とつまみと
朝日が差し込むリビングで、私は伸びをしながら言った。
「さて……今日こそ“文明の力”を手に入れに行くぞ!」
「文明って言うと、なんかすごい規模の話みたいに聞こえる……」
クラリスが呆れ混じりに返す。彼女はすでに身支度を済ませ、今日の買い出しに向けてのチェックリストを手にしていた。
「本日は“泡鳴区マーケット通り”を中心に、家具・雑貨店を見て回る予定です」
ミスティアはというと、今日も今日とて完璧な段取りである。ゆったりめの外出用ローブを翻しながら、手帳をパタリと閉じた。
こうして私たちは、気合い十分で家を飛び出した――。
*
泡鳴区の商店街は、早朝から活気にあふれていた。
目指すは、家具と雑貨とつまみの三本柱を取りそろえたという「バザール・ド・バルク」。通称“泡鳴の何でも屋”。リサイクル品から高級家具、屋台のつまみまで揃ってるってウワサ。
「うわっ……この椅子、座り心地良っ!」
私は店内に入るやいなや、試しに座ったふかふかの椅子から動かなくなった。
「……伊吹、それ荷物になるから。優先度を考えよう」
クラリスはスケールを片手にソファのサイズを測り、真剣な眼差しでメモを取っている。
「こちらのラック、背が高くて収納力がありそうです。瓶や酒器も並べられそうですね」
ミスティアは炭酸水を片手に、すでに棚を2つ選び終えていた。あまりにも実務的すぎて、むしろ店員に見える。
「つまみ棚どこ! ビール専用台座とかないの!?」
「家具屋に“ビール台座”なんてニッチなコーナーがあるか!」
「いや、ある! “おつまみ棚”って書いてある!」
私は棚の角にあった謎のポップを指差し、クラリスとミスティアを引っ張る。そこには、実際に「おつまみ専用トレー&ラックコーナー」が存在していた。
「勝訴っ……!!」
「まさか存在していたとは……需要、あるのか?」
「こちらのトレー、表面が防水加工されていて洗いやすそうですね。伊吹さん、こちらの方が衛生的かと」
「さすがミスティア! 炭酸水の精って感じ!」
「私は人間です」
私たちは一通り必要な家具と雑貨を選び終え、屋台で軽食を買って休憩した。
酒はないけど、つまみはある。揚げタコ焼きと、バジル風味のチーズクラッカー。ミスティアは炭酸水。クラリスはジンジャーティー。私はジュース(休肝日)。
「この家具たちがうちに並ぶかと思うと、ちょっと楽しみだなあ」
「うん。これで、ようやく“帰る場所”って感じになるかもね」
「拠点が整えば、活動の幅も広がります。依頼にも、より本腰を入れられるかと」
“酒のため”とはいえ、こうして皆で一緒に選び、笑い、語りながら買い物するのも悪くない。
次の戦いに備えて、私たち《酔いどれ旅団》は今日も着々と成長している。




