ここが我らの酔いどれ拠点!
泡鳴区の一角に立つ、木造二階建ての一軒家。
それが、私たち《酔いどれ旅団》の新たな拠点である。
「おじゃましまーす! これよりここを! 酔いどれ聖域とするっ!!」
――そんな大げさな叫びに反して、内装はとても普通だった。
まず玄関から入り廊下を抜けると、広めのリビングがどーん。ソファにテーブルとイス、あとは壁際に棚。
隣には台所があって、ちゃんと火の魔石コンロと冷却魔導箱(つまり冷蔵庫)付き。シンクも広くて料理しやすそう。
そしてその奥に、お風呂とトイレ! お風呂はなんと、湯量調整式の浴槽付き。毎日ちゃんと湯船に浸かれるの、最高すぎん?
「お風呂、広い……! これなら三人分の疲れ、全部流せるね!」
「いや、さすがに一緒には入らないでしょ」
クラリスの冷静なツッコミが新拠点でも披露される。
「え? 違うよ? 交代制って意味だよ? すごい健全じゃない?」
二階には寝室が三部屋。私、クラリス、ミスティアがそれぞれ使う予定。プライバシーも保てるし、これなら夜中に酔いつぶれても安心!
「築年数はそれなりですが、管理状態は悪くないようですね。水回りも確認しましたが、問題ありません」
ミスティアが淡々とチェック項目を読み上げながら、キッチンへと向かう。
「寝室は別々でよかったよね」
クラリスは扉の建て付けを確認しながら、きびきびと家中を巡回している。
「うん、ルームシェアっていうか、ルーム“バラバラ”の方が気楽でいいよ。寝相の悪さで迷惑かけないし」
「誰に言ってんのよ、それ……まさか私?」
「ノーコメント!」
私はごまかすように笑う。
「建物の横にある倉庫も確認しました。錠付きで、内装も温度と湿度が保たれています。食材や酒類、道具類の保管に適しているかと」
「でかした! 最高だミスティア!」
私はぴょんと軽くジャンプして、その場でターン。
「リビングで晩酌して、台所でつまみ作って、湯船で酔い冷まして、ふかふかのベッドで就寝……最高のお酒ライフ!」
「……目的が完全に酒だけなのよね」
クラリスがあきれ顔でため息をつく。でもその目は、どこか楽しげだ。
「ギルドまで徒歩二十分。食材市場も近くにあるし、裏通りには酒蔵もある。立地は悪くないわね」
クラリスが地図を確認しながら、口元を緩める。
「ともあれ、これで本拠地も確保できたわけだし……ようやく“冒険者”としての基盤が整ったって感じだね!」
「ええ。ここを拠点に活動を広げていくのが、今後の第一歩かと」
まだまだ弱小な旅団、金銭的にも余裕はない。
でも、この家にはちゃんと屋根がある。風呂もある。台所もある。酒も炭酸水も剣も、仲間もいる。
この家でこれからいろんな思い出が積み重なっていくと思うと、胸が少し高鳴る。
「よし……今日のところは引っ越し祝いだ! 乾杯はしないけど!」
「そうね。ここ2,3日たらふく飲んだからお酒は控えないと」
「私も本日は炭酸水で結構です」
《酔いどれ旅団》の新たな拠点ライフが静かに始まった。




