目標:うまい酒とつまみ、ついでに世界救う
「……つまり、目標は“うまい酒とつまみを求めて世界を巡る”ってことで合ってる?」
クラリスが机の向こうで眉をひくつかせる。
場所はギルド本部の二階、通称“作戦会議室”と呼ばれる一角。予約もいらず静かで、わりと穴場なミーティングスペースだ。私たちは
今後の方針を話し合うことになった。
「うん、だいたい合ってる。あとはついでに世界救うくらいで」
私、大江山伊吹。酔いどれ代表である。
「ついでにって……」
クラリスが苦笑する。ミスティアは窓際の椅子に腰掛け、静かに紅茶を口にしていた。
「……ちなみに私は、今日一日アルコールは控えます」
「わたしも! マジで今日はお酒見るだけで頭ぐらぐらする……」
そう。私は今、絶賛・二日酔い中。
原因はもちろん――表彰後、ギルドの皆がくれた“おめでとう酒”だ。
(祝ってくれるのは嬉しい。嬉しいけど……なんであんな不味い酒をあんな勢いで飲んじゃったんだろう、私……)
テーブルに突っ伏す私。全身からアルコールの残滓が蒸発していくのが自分でもわかるレベル。マジで脳が揺れてる。
「伊吹、あれは“がぶ飲み”ってレベルじゃなかったわ。あんなに飲んで、二日酔いで済んでるのが奇跡よ」
ギルドの貯蔵庫に眠ってた賞味期限ギリギリの酒を口に流し込んだ自分を思い出し、私は頭を抱える。あれは酒じゃなかった、液体の罪だった。
「市営食堂のご飯も、味は……まあ、忘れよう」
「人間が食べていいものじゃないよ。人間が作っていいものでもない」
「炭酸水で流したのが唯一の救いでした」
昨日の晩、支給された食事券で訪れた“市営食堂”の味気なさを思い出し、三人同時にため息をつく。表彰されたパーティーに出すもんじゃないよ、あれ……。
「というわけで、次の目標は“ちゃんとした食と酒を求めての旅”に設定しよう。酒は命、つまみは正義!」
「それで……拠点はどうしますか?」
ミスティアが問いかけてくる。彼女はこの街の地理に詳しく、今の宿が手狭になっていることも理解している。
「昨日の報酬、金貨10枚と食事券。それにギルドからの報奨分を合わせれば、初期費用としては十分。もうちょっとマシな拠点を探したいなーって」
「でしたら、“泡鳴区”などいかがでしょう。少し郊外ですが、家賃は安く、倉庫付きの物件もあります」
「泡って名前に反応してるわけじゃないよね?」
「……偶然です」
クラリスが地図を広げる。
「泡鳴区なら、ギルドまでは徒歩20分。食材市場もあるし、裏通りには酒蔵もあるらしいわよ」
「それだーーーっ!! そこにしよう! 《酔いどれ旅団》の本拠地、泡鳴区に爆誕!!」
「勝手に決めたわね」
「いえ、今ので確定で構いません」
ミスティアが静かに同意してくれた。
昨日、パーティーを組むときに正式に決めた名前――《酔いどれ旅団》。
酒を愛し、旅を愛し、なんか間違って世界を救っちゃうかもしれない愉快な三人組。
まだまだ弱小だけど、私たちには確かな“酔い”がある。
何より、最高に楽しい未来が待っている気がした。




