祝杯と泥酔と、正式結成!《酔いどれ旅団》
ギルド奥の大ホール。
今夜は、私たちの《地下水路の魔草駆除》クエスト成功を祝って、ささやかな祝勝会が開かれていた。
「カンパァァーーーイ!!」
冒険者たちのジョッキがぶつかり合い、泡が飛び、笑い声が弾ける。
そのど真ん中で――
「おいしッッくなァいッ!! けど飲むッ!!」
私は泣きながら、異世界ビールをラッパ飲みしていた。
なぜかって? だって、せっかくの祝杯なのに、この酒……クソまずい!!!
「苦いのに甘い! 発酵臭い! どんな舌の裏切りだよぉぉおお!」
「伊吹、無理に飲まなくていいのよ……」
クラリスが肩をさすってくれるけど、私は叫ぶ。
「だめなの! 祝い酒は! 飲まなきゃ! 酔いどれの名が泣くっ!」
「いや、名乗ってすらいないけど……?」
ミスティアは少し離れた席で、マイジョッキに水を注いでいる。
「私は……炭酸水で乾杯します」
「それ炭酸水じゃん! ちょっと分けてぇぇぇぇ!」
「伊吹さん、それは……おそらく吐く前兆かと」
「そんなことない! ……かもしれない!」
そして――三本目の瓶を空にしたあたりで、私は倒れ込むようにテーブルに突っ伏した。
もう視界が泡だ。泡泡だ。もしやミスティアの魔法か?
「伊吹……完全にできあがってるわね」
「……楽しいですけど、ちょっと騒ぎすぎでは」
クラリスとミスティアが、困ったように目を合わせたそのとき。
ミナさんがふわっと現れた。
「おふたりとも、お疲れさまでした〜! 伊吹さん……は、いま酔いの世界へ……」
「完全にね」
「お話、進めちゃってもいいですか?」
ミナさんがそっと紙を差し出す。それは――パーティー登録申請書。
「もし今後も三人で活動されるなら、正式にパーティーを結成されるといいですよ〜。実績にもなりますし、クエスト選択にも幅が出ます」
「……正式に、ね」
クラリスがその紙を見つめる。隣では、ミスティアが少し口元を引き結ぶ。
「私は……本当に、ここにいていいんでしょうか」
「当たり前でしょ」
テーブルからぬうっと立ち上がったのは、目がとろんとした私。
しかし、その声だけはやたらと真剣だった。
「だって……私が選んだんだよ、あなたたち。美少女で、酒で、剣と泡の力があって……最高でしょ!」
「それ、基準おかしくない……?」
「じゃあ言ってみなよ、クラリス! あなたの中で、私たち三人がパーティー組む意味!」
「ええと……突撃バカが前衛、剣士が護衛、そして魔法支援が後衛。バランスは取れてる」
「もっとこう……情緒的に!」
「戦略的には最適な構成、情緒的には……楽しいわ」
「はい満点ー! じゃあ決定です! 私たちは、パーティー《酔いどれ旅団》をここに結成しまーーす!!」
「……仮称じゃなかったんですか?」
「いやもう仮じゃない。酔いどれ上等!」
クラリスが仕方なさそうに笑い、ミスティアが苦笑いで頷いた。
ミナさんが、満面の笑みで拍手を送ってくれる。
「では正式登録しますね〜。パーティー《酔いどれ旅団》、冒険者ランク:D、メンバー三名! よろしくお願いします!」
ギルドの奥からも、ちょっとした拍手が起きた。冷やかし半分、本気半分。でも、いいのだ。
炭酸と剣と金棒の三人組。ちょっと騒がしくて、ちょっと変わってて、だけどきっと、どこまでも行ける。
この日、私たちは正式にパーティーを結成した。
翌朝――私は二日酔いで死ぬほど後悔することになるけど、それはまた別の話。




