祝勝の泡と、ぬるっと表彰式
地下水路の魔草を倒し、私たちは無事地上へと戻ってきた。
全身ずぶ濡れ、でも心は晴れやか! ぬめりと胞子まみれだった地下の悪夢が、今はもう遠い過去のように感じる。
「っかぁ〜! 空気がうまい! ビールもうまい!」
私は早速、酔楽の酒葬からビールを一口……のはずが三口くらいゴクゴクいって、スカッと酔っぱらっていた。
もちろん酒バフを発動させたまま。
「ちょ、伊吹! あんた報告前でしょ!」
「ん〜大丈夫大丈夫、酔っ払いの報告は酔ってこそだよぉ〜」
「報告は事務処理。テンションじゃどうにもならないから」
クラリスのマジトーンにもめげず、私は肩を組んでくるくる回る。そこに、少し遅れてミスティアが地上出口から顔を出した。
「伊吹さん……もう飲んでるんですか?」
「ミスティア〜〜! 炭酸ありがと〜〜!! 炭酸で滑って炭酸でぶっ飛ばして炭酸でキメたぁ〜!」
「……酔ってますね、完全に」
冷静なミスティアの視線を浴びつつ、三人そろってギルドに戻る。
ギルドホールの扉を開いた瞬間――
「おお、あの魔草クエストクリアしたのか!?」
「マジで!? あの誰も受けたがらないクエストを……!?」
「しかも炭酸の子入れて? すげえ!」
ざわめきが一気に広がる。
今まで散々「泡だけ女」と言われていたミスティアも、今はまるで“炭酸の救世主”扱いだ。ちょっと嬉しそうに口元が緩んでるのが見えた。
「みなさーんっ! お静かにお願いいたします〜っ!」
カウンターからミナさんが手をパタパタしながら呼びかける。そして、私たちに向かってにっこり。
「伊吹さん、クラリスさん、ミスティアさん! 《地下水路の魔草駆除》の成功、おめでとうございますっ!」
パチパチパチパチ……と、冒険者たちからの拍手が起こる。
「んふふふっ……照れるなぁ〜」
「いや、酔ってる人が受け答えすんな」
クラリスのツッコミも心地いい。だってこれ、表彰だよ?
表彰なんて人生初! 酔ってなくてもテンション上がるって!
「では、冒険者ギルド本部より、ささやかではありますが――表彰状と報酬の贈呈をさせていただきます!」
ミナさんが可愛いリボン付きの表彰状を手渡してくれる。
「冒険者パーティー《仮:酔いどれ旅団》殿。あなたたちは困難なクエストに果敢に挑み、地下水路の魔草根株を見事駆除しました。その功績を称え――」
「カンパーイ!!」
「乾杯するな!! いま乾杯するなっ伊吹!」
クラリスのツッコミが再度炸裂。私は勝手に自前のジョッキを掲げて、盛大に祝杯をあげた。
冒険者たちが笑いながら囃し立てる。
「表彰式で乾杯するなよ!」
「だが、それが伊吹だ」
「これはこれでアリ!」
「炭酸の子、いいチームに拾われたな〜」
私たちはちょっとだけ、ギルドの“普通”を揺らした。
炭酸まみれでも、酔ってても、ふざけてても――結果を出せば、少しは認めてもらえる。
ミスティアも、その空気を感じ取ったようで、わずかに目を伏せて呟いた。
「……私にも、居場所があるんですね」
「あるある! ここは炭酸と酒のユートピアだから!」
「うん、それはちょっと違う気がする」
クラリスの冷静な声を受け流しつつ、私はミナさんから受け取った報酬袋を掲げた。
「金貨十枚と! 市営食堂の食事券ゲットぉぉぉ!!」
「そっちかよ! 表彰状は!?」
ギルドの空気は、ほんの少し、明るく軽く、炭酸みたいに弾けていた。




