泡と剣と金棒と〜地下水路リベンジ編〜
地下水路――再戦。
あの忌まわしき湿気と、苔と、魔草の匂いが鼻をつく。
だけど今日は違う。私たちのパーティーには、新たな仲間――“炭酸系女子”がいる!
「前方、魔草の根株を確認。伊吹、突っ込む前に情報を」
「オーケー、司令塔ミスティア!」
ミスティアが杖を構え、淡々と告げる。
「胞子の揺れ、光の反応、ツルの動き。聞いた情報と同じなら、まずは視界確保のため、胞子を払います」
その言葉と同時に、杖の先端が青白く輝く。
「《泡沫魔法・零式:エアボム》」
パンッ!!
炸裂音とともに、透明な泡弾が空気を裂いて魔草の胞子を拡散させる。その中心は真空のようにクリーンな空間となり、視界がいっきにクリアに!
「視界良好! ミスティアすげぇ!」
「次、滑走床を展開。クラリスさん、床下警戒を」
「了解!」
「《泡沫魔法・滑層:スリップフォーム》」
ミスティアの足元から、炭酸の泡がサラサラと床を這うように流れていく。床に触れた魔草の根が泡に包まれ、ツルの動きが鈍化していく。
「伊吹、今です」
「行くぞぉぉぉお!!」
私は腰の瓢箪、酔楽の酒葬を手に持ち、魔力を注ぎ込む。
すると瓢箪がボッと一瞬でふくらみ――
「出ろ、ビール!!」
ドバアアアアッ!!
泡立つ黄金色の液体が私の口元に豪快に噴射される。
私はその勢いに逆らわず、ゴクッと一気に流し込んだ。
「ぷはっ……! 酒バフ、発動ぉぉっ!」
身体が軽くなる。《俊敏上昇・スプリントフォーム》が発動し、視界が冴える。
五感が研ぎ澄まされ、酔いとテンションで足取りまで軽快になる。
私は酔いどれ特攻隊と化し、スリップ床の上をスケートのごとく滑走!
「いっくよおぉおおお!! 酔鬼ノ号哭!!」
私は背中から金棒である酔鬼ノ号哭を引き抜き、魔草に突っ込んだ。
「オラァァッ!」
――ドガァァァン!!
金棒を振りかぶり、うねるツルを豪快に叩き落とす。衝撃で魔草の一角が吹き飛んだ。
だが、根株は動じない。無数のツルを一斉に伸ばしてきた!
「伊吹、下がって!」
クラリスが前に出る。
「《閃律剣・フェリシア》」
銀の剣が閃き、迫るツルを一閃する。風圧すら生む鋭い斬撃で、ツルが数本ぶった斬られた。
「ナイス、クラリス!」
「まだ来るわよ……!」
その時、ミスティアが静かに杖を掲げた。
「追撃ッ! 《泡沫魔法・穿突:スパークリングスピア》」
ミスティアの杖から放たれた圧縮炭酸の槍が、ズドンと魔草に突き刺さる。
魔草が一瞬ひるむ。
その隙を酒バフ状態の私は見逃さない。
私は金棒をくるりと回して、踏み込む。
「ナイスミスティア! あとはこっちで酔って殴る!」
金棒でツルを薙ぎ払い、クラリスがその間隙を縫って魔草の中枢へ飛び込んだ。
「ここが……本体ね! 伊吹、今!!」
「了解っ!!」
私は瓢箪からもう一口飲み――再びバフをチャージ!
その勢いのまま、クラリスと呼吸を合わせて叫んだ。
「せーのっ!!」
「「とどめっ!!」」
クラリスの剣が閃き、私の金棒が炸裂する。
二人の一撃が根株を破壊した瞬間――魔草は崩れ、ツルが枯れ落ちるようにしぼんでいった。
静寂が戻る。地下水路に響いていた胞子のざわめきが消えていた。
「……勝った?」
「根株の魔力反応、消失確認。作戦成功です」
ミスティアが淡々と宣言するその横で、私は全身にビールを被り泡まみれにしながら叫んだ。
「やったーーーー!! ミスティア、ありがとう! 超助かった!!」
「……当然です。炭酸水は、意外と万能なんですよ」
そう言って少しだけ笑った彼女の表情は、どこか誇らしげだった。
「炭酸で割ってよし、炭酸で吹き飛ばしてよし、炭酸で活躍してよし! ミスティア、炭酸系女子の時代来てるよ!!」
「それは……どうかと思いますけど」
戦いのあとの地下水路に、私たちの笑い声が静かに響いた。




