表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に酒税法は存在しねぇんだよぉぉぉ!!  作者: ヒオウギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/145

パーティーに炭酸系女子が加わった!

「すみません、少し失礼します――」


 ギルドの扉が重々しく開き、静まり返った空間に軽やかな足音が響く。


 入ってきたのは、背筋をすっと伸ばした水色のローブの女性だった。涼やかな水髪をポニーテールにまとめ、腰には銀細工の美しい杖。顔立ちは整っていて、なにより――背が高い。

 クラリスよりも頭ひとつ分は高く、175センチはありそうだった。


「……あれ、誰?」


 私は小声でクラリスに訊いた。


「ミスティア。確かギルド所属の水魔法使いよ。けど、あまり誰かと組んでるのを見たことないわね」


 その名が聞こえた瞬間、まわりの冒険者たちの空気が微妙に変わった。


「あー、炭酸の人か」

「また一人で依頼出す気かよ」

「そりゃあ組むやついないよな」


 そんな囁きが、テーブルのあちこちで交わされる。


「……雰囲気悪っ」


 私は思わず眉をひそめる。


 当の本人は、その空気にまったく動じる様子もなく、カウンターへと歩いていく。


「依頼の確認に参りました。昨日提出したものの内容に変更はないかと」


 その口調はどこか理知的で、淡々としている。感情を抑えているというよりは、他人と距離を取ることに慣れきっているような、そんな声音だった。


「あっ、ミスティアさん。はい、こちらで確認いたしますね〜」


 ミナさんが微笑みながら書類を取り出すが、その笑顔にもどこかぎこちないものが混ざっているように見える。


「ねえクラリス、あの人……なんであんなに避けられてるの?」


「詳しくは知らないけど、噂では“普通の水魔法が使えない”らしいわ」


「え、それだけで?」


「じゃないのよ。なんでも特殊な水しか出せないんですって。魔力量も威力も申し分ないのに、出るのが変な水。だから、扱いづらいって敬遠されるみたい」


「……変な水?」


 そんな中、ふとミスティアの視線が私たちに向く。


「あなたたち、《地下水路の魔草駆除》を受けたパーティーですね?」


「あ、うん。びしょ濡れの実績付き」


「お疲れさまでした。あの案件、私も以前下見をしました。ソロでは危険と判断して見送ったんです。誰も受ける人がいないので頻繁にクエストに出されるんですよね」


「もっと早く言ってぇぇぇえ!!」


 私が突っ伏すと、クラリスが苦笑しながら背中をぽんぽんと叩く。


「あなたが、ミスティアさん?」


 私は机に突っ伏したまま、視線だけを彼女に向ける。


「ええ。そう呼ばれています」


「わたしは伊吹(いぶき)。酒と美少女と隣にいるクラリスをこよなく愛する新人冒険者です」


「……奇抜な自己紹介ですね」


 ミスティアの眉が少しだけ動いた。


「でさ、ミスティア。水魔法使いって、強いんじゃないの? なんで一人なの?」


「……私の魔法は、通常の水ではなく、炭酸水しか扱えません」


「炭酸水!?」


 私はがばっと顔を上げた。


「それって――お酒割れるじゃん!!」


「……はい?」


「ハイボール、酎ハイにサワー、全部いける! あなた、私の瓢箪と組んだら最強のバーテンダーコンボだよ! もう旅回りの酒場開けるレベル!」


「……戦闘の話では?」


「戦闘にも使えるじゃん! 泡で視界を塞いで、泡で滑らせて、泡で顔面直撃! 可能性しか感じないってば!」


 ミスティアの目が、わずかに見開かれた。


 周囲の冒険者たちは、ぽかんと口を開けている。


 その中で私は真剣そのものだった。


「ねえ、ミスティア。私たちと組んでみない? 一緒に酒と旅と、たまに世界を救おうよ」


「……あなたたち、私を“変わり者”だと笑わないんですね」


「むしろ最高だと思ってるよ!」


「私たちもだいぶ変わり者だから」


「炭酸水だろうとなんだろうと、私たちは力を貸してくれる仲間を歓迎するわ」


「私たちはまだ駆け出しだけど……でも、信頼できる仲間が欲しいのは一緒よ」


 少しの沈黙の後、ミスティアはそっと頷いた。


「……わかりました。一度だけ、試させてください」


「やったあああああ! お酒と炭酸の化学反応パーティー結成!!」


 こうして、孤高の水魔法使い・ミスティアが、私たちのパーティーに加わることになった。


 炭酸水とお酒と剣。妙な組み合わせだけど――なんか、ワクワクしてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ