酒とギルドと、美しき受付嬢2
「それでは、おふたりの登録は完了です。依頼をご覧になりますか?」
受付嬢――ミナさんがにこやかに尋ねてくる。
その笑顔が眩しい。女神かな?
「見る見る! できればお酒に関係あるやつがいいです!」
「お、お酒……ですか?」
少し戸惑いながらも、ミナさんはカウンターの下から分厚い依頼書の束を取り出してぺらぺらとめくり始めた。
「ええと……あっ、ありました。“《酒場ホウシュウ》:発酵スライム討伐”。どうでしょう?」
「はい、それです! 一択! 即決!」
「待って伊吹。内容聞いてからにして」
クラリスが横から止めるけど、私のテンションはもう最高潮。
「だって“発酵スライム”だよ?名前からして酔っぱらってそうじゃん!討伐したらお酒になるでしょ絶対!」
「なるの?それ」
「ならなくても気になる!飲みたい!」
「依頼内容はこちらです」
ミナさんが小さな紙を差し出してくる。字もキレイ。声も癒やし系。癒やし特化型ギルド受付嬢だわこの人……。
【依頼名】発酵スライム討伐(Dランク)
【依頼主】宿酒場「酔いどれ熊亭」
【内容】裏山の洞窟に棲みついた発酵スライムが、備蓄していたワイン樽を吸収して暴走中。客に出す酒が減って困っている。討伐または追い出しを希望。
【報酬】酔いどれ熊亭の酒飲み放題チケット × 7日分
【備考】くさくても泣かない人推奨。
「……くさいんだ」
「腐敗と発酵は紙一重って言うし、たぶん発酵スライムってそういうヤツなんだよ」
「どんなフォローよそれ……」
クラリスが呆れてる間に、私は勢いよく依頼書にサインした。
「討伐、行きます!飲み放題チケット、狙いにいきます!!」
「それ、完全に目的が酒だけじゃない……?」
「違うよ、クラリス。酒が“全部”なの」
ミナさんは「がんばってくださいね〜」とほんわか微笑みながら、依頼書の控えに記入していく。
やっぱり、ギルドって最高だ。美人がいて、酒があって、モンスターをぶっ飛ばせる。
私たちの冒険――いや、酩酊と混乱と爆発の旅は、ここから始まる。




