酒とギルドと、美しき受付嬢1
朝の陽がまだやわらかい時間、私とクラリスは街の中心にある冒険者ギルドへと向かっていた。
「ギルド登録って、どうせ名前書いて魔力測って、最後に“無理せず頑張ってくださいね”って美人に言われて終了でしょ?知ってる」
「……知ったような口を利かないの。初めて来るくせに」
クラリスのツッコミは今日もキレがいい。
でも、私には確信があった。なぜなら――私は美人が好きだ。
子どもの頃から、気づけば可愛い子や綺麗なお姉さんばかり目で追っていた。
異世界に来てもその本能は健在。
むしろ、異世界美人という未知の可能性にドキドキが止まらない。
きっとこのギルドにも美人の受付嬢がいる。
ギルドの扉を開けた瞬間、その“期待”は確信に変わった。
「……うっわ、いたよ、本物……!」
受付カウンターに立つ彼女は、思わず見とれるほどの美女だった。
長く艶やかな黒髪に、すっと通った鼻筋。
涼しげな目元には知性が宿り、鮮やかな紅がさされた唇は色香を含んでいた。
しかも胸元のライン、完璧すぎでは?
なにこの女神……!
私は心の中で小さくガッツポーズ。
おいしいお酒と、美少女と美人。人生に必要なものはだいたいこの三つである。
「いらっしゃいました。ご登録でしょうか?」
その声まで美しい。
私は反射的に一歩前に出た。
「はい、登録希望です、美人さん。あと、連絡先とか個人的に教えてもらったり……」
「伊吹」
隣からクラリスの低い声が飛んでくる。
「な、なに?反射だよ?美人に反応するのって生き物として自然じゃん?」
「いいから、口閉じてて。受付嬢に失礼でしょ」
「お名前と職業をお願いします。それと、簡単な魔力量の測定もありますので、こちらへどうぞ」
「伊吹、職業は……『酒飲み』です!」
「……それ、本気で言ってる?」
「うん。だって飲むし。飲んで戦うし。酒バフだし。むしろ酒が本体かもしれない」
「なら私は、クラリス=ヴァン=シュトラール。職業は剣士です」
受付嬢は一瞬だけまばたきしたが、何も言わず、さらさらと書類に書き込んでいく。
……え、通ったの?『酒飲み』って、通るの?
「魔力量測定、どうぞこちらへ」
案内された測定台で水晶玉に手を置くと、淡く輝く光がぽわんと灯った。
「魔力量、平均よりやや高めですね。十分活動可能です」
「やったぁ……これで合法的にお酒飲める!」
「伊吹、それギルド登録の目的じゃないからね」
クラリスの苦笑を背に、私は銀縁のギルドカードを受け取る。
名前とIDが刻まれたそれは、まさに冒険者の証だった。
「では、おふたりの登録完了です。活動にあたっては、このカードを常にお持ちください」
受付嬢の笑顔が、今日いちばんのご褒美だった。
「……クラリス。私、思ったんだけどさ」
「なに?」
「この街に永住してもいいかもしれない」
「はいはい。どうせ理由は美人の受付嬢でしょ?」
「……ぐぅ」
異世界に転生しても、私はやっぱり美人に弱い。
むしろ、美人耐性はゼロになっていた。




