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とにかくめんどくさい件

「あぁ、めんどくせー」

 

 俺――神宮寺勇吾は、はぁぁっと大きくため息をつく。

 そして、おもむろにスナック菓子の袋に手を突っ込み、口に放り込む。狭い部屋に、バリボリという下品な音が響いた。

 

「あぁ、めんどくせー」

 

 何をする気力も起きず、毎日ベッドから起きられない。起きる気もない。

 狭いアパートの一室。布団を敷きっぱなしにして、周りにマンガの山をどさりと並べ、枕の横にお菓子を大量に置いている。

 布団からは基本出ない。出るのは、トイレと、週に一回のお風呂だけ。もちろん料理なんてするはずもなく、食べるのはスナックや菓子パン、カップラーメンばかりだ。the・ズボラ男こそこの俺。神宮寺勇吾である。

 

 でも、もともとはこんなんじゃなかったんだぜ?

 ――いつからだっけなぁ、こんなふうになったのは。

 

 高校まで、俺は優秀だった。スポーツもできたし、成績も優秀。頼まれたことは何も断らないし、いつも笑顔だった。自分で言うけど、顔もそこそこだったと思う。そう、あの頃の俺は、大人から()気に入られる典型的な『イイコ』だった。

 でも、あることがきっかけで、なんかもう全てがどうでも良くなってしまったんだ。

 

 と、そのとき。

 ピロリリリリッ♪ ピロリリリリッ♪

 汚らしい部屋に、場違いな可愛らしい電子音が響く。音がした方に顔を向けると、スマートフォの画面が光っており、『母』と表示されていた。

 ……チッ、またかよ。

 つい舌打ちが漏れる。最近は減ってたから、諦めたかと思ったってのに。しつけえなぁ。

 無視しても、ずっとなり続ける。

 ピロリリリリッ♪ ピロリリリリッ♪

 

「はぁぁあ」

 

 大きなため息をついて、スマホの電源を切る。まぁ、今着拒否したとこで根本的な解決にはなってねぇけど。

 

「もっかい寝るか……」

 

 目を閉じる。寝てるときが一番幸せだ。……なにも、考えずにすむ。


 

 寝る天才の俺は、すぐに夢の世界に旅立った。





 ♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰

 

「んぁ?」

 

 変な声が出た。だって、目を覚ますと、目の前には岩が広がっていたから。

 ぴちょん、ぴちょんと水の垂れる音がする。

 ここはどこだ? 薄暗いし、洞窟か……?


 ……あ、なんだ、まだ夢の中にいるのかよ。変な夢だな。

 ライトノベルとかだと、夢だと思ったら実は転生してて、こっから冒険が始まるんだよなー。

 でもここで主人公のように、『よぉし! せっかくだしぃ、探検しよーうっ♪』……とはならないのが俺、神宮寺勇吾である。

 めんどくさい。夢の中でも動く気はねぇよ。

 でも岩だし、寝心地悪そうだなぁ……雲の上にいる夢が良かったぜ。

 文句を言いながら横になろうとしたら。

 

「は?! 動けねぇっ!!!」

 

 指一本動かせない。いや、というか、動かすものがないというか? とにかく変な感覚。

 俺の体、どうなってるんだ?! 視線を下げると、ひょろりとした体……ではなく、スラリとした銀色の金属が、岩に刺さっているのが見えた。


 は?! え、なに、え、どうなってんだ?!

 

 パニックになりながらさらに辺りを見回すと、水たまりがあった。ぴちょん、ぴちょんと今もなお上から水滴が落ち、波紋を広げて水たまりに吸い込まれていく。さっきから水の音がすると思ったら、これか。

 よし、自分の姿はどうなってんのか確認しよう。そう思って目を凝らすと、岩に刺さる長い剣が見えた。

 刃こぼれしているものの、その刃はスラリと鋭利だった。

 柄にはホコリを被っていてもわかる細かな美しい彫刻が入っており、そして……なんか、柄の部分に目がついてる。

 嘘だろ…? と思って瞬きすると、剣のまつ毛も上下する。


 

 ……ここに来てようやく、ある一つの可能性が浮き出てきた。

 

 俺まさか……この、剣になってるのか?

 

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