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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある夏の日のこと そして百合

 田舎。夏。セミ。そんな感じの風景。元気な太陽が今日も人々を辟易させる。そんな感じの天気。人気のない街を、ちょっと散歩してみる。体から汗が湧き出て、シャツを濡らしていく感覚があった。私は一つ、ため息をつく。


「暑い」

「そりゃ夏だもの、暑いに決まってるよ」

「それにしたって暑いよ」

「そういうものだよ、ほのかちゃん。それに、東京よりは涼しいよ」

「そうかなぁ?」

 

 あかねの方を見てみる。その顔には汗一つ見つけられず、麦わら帽子をかぶった顔は涼しそうな表情にすら見えた。私はもう一つ、ため息をついた。


「ため息をついたら、幸せが逃げちゃうらしいよ」

「うるせえ」


 私、赤羽ほのかはいわゆる里帰りというやつをしていた。父方の祖父母の家だ。場所としては、福島県の南の方で、県の中では人が多い方らしい。もっとも、東京にいつも住んでいる人間からすると、ド田舎に思えてしょうがないのだけど。


「それは田舎の人に失礼だよ、ほのかちゃん」

「いーんだよ、関東より外はみんな田舎なんだよ」

「それじゃ大阪は?」

「田舎」

「愛知県は?」

「田舎」

「京都府」

「もちろん、田舎」

「……」

「いーんだよ、なんでも。というか、サラッと人の心の中を読まないでよ」


 そしてこのうるさいやつが、朱里あかね。こいつとは幼馴染で、もう十年くらいの関係になる。親同士が仲が良く、今回里帰りに同行しているのも、彼女の親が両方仕事で家を空けるために、こいつをうちでしばらくあずかることになって、せっかくだから一緒に旅行も兼ねてもらおう、みたいな話になったからだ。どうやら東北に来たのも初めてらしく、見るもの一つ一つに目を輝かせている。こんなド田舎に魅力を感じられるなら、きっと幸せに生きていけるに違いない。


 それにしても、暇だ。朝8時くらいに家を出たけど、ただ歩いてしかいない。あいにく私は誰かさんと違って珍しい鳥とかそこら辺を飛ぶチョウとかに興味は惹かれない。といっても、おじいちゃんの家では棚の古いマンガを読むくらいしかやることがないし、Wi-Fiは通ってないし。あと三日間、どうすごそう。


「ここらへんに、映画館があるらしい」

「へえ。それで?」

「暇だし、あとで行こうよ」

「えー。映画なんて、東京で見られるよ」

「じゃあ、どうやって時間を過ごすの?」


 あかねは顎に手を当てて、まじめに考えていた。そして、30秒くらいして、答えた。


「えっと、散歩」

「もうたくさんしたでしょ」

「じゃあ虫取り」

「小学生か」


 だめだこりゃ。


 あかねとは、高校にいたるまで、大体一緒にいた。もちろん学校は同じだったし、なぜかクラスも同じになることが多かった。部活も、同じテニス部に入っている。実績は、私はそこそこで、あかねは結構うまい。よく見ると顔立ちも整っているため、同級生や後輩から結構人気があったりする。女子校なのに、だ。


「ん、どうしたの?」

「……どうした、って?」

「いや、ほのかちゃん、私のことじっと見てたから」


 げっ。無意識のうちに。


「いや、なんでもないよ」

「ふーん」


 あかねはちょっと考えて、


「もしかして、私に見とれちゃってた?」


 だとか言ってきた。反論するのもめんどくさく、私はただ一言、


「ちげーよ」


 と言った。やっぱり、こいつに惚れるような奴は、こいつのことをよく知らないような奴なのだ。あかねの本性は、せいぜいただのうるさくて天然のあほの子といったところだろう。


「いくらなんでも、それはひどいと思うな」

「だから、人の心読むなって」



 一旦家に帰って、昼ご飯を食べる。今日のご飯はそうめんだった。もう五回くらいはこの夏休みの間にそうめんを食べている気がする。あかねはたくさん食べた。遠慮なんて言葉は知らないようだった。まあ、そっちの方がやりやすいからいいのだけど。おばあちゃんなんか、あかねの食べっぷりに感心して、さらに2束くらいゆでてやってた。もちろんあかねは、追加分までペロッと食べてしまった。さすがは思春期、食欲がすごい。



 その日の午後は、おじいちゃんと水族館に行った。私は何度も行ったところというのもあってさしてはしゃがなかったが、あかねはうっきうっきでまわってた。そんなあかねを見て、おじいちゃんは幼くてかわいい孫を見ているよう目をしていた。実の孫はとなりにいるんだけどね。



 そうして、一日は終わっていった。あかねは遊び疲れたようで、私はあかねの相手に疲れた。まあ、元気な子がいると、おじいちゃんたちが喜ぶから、べつにいいけど。



 やることもないので、もう寝ることにした。なぜか、あかねと私は隣のベッドだった。夜寝るとき、あかねは、


「今日をとっても楽しかった!明日も楽しみでしょうがない!」


 と小学生のような感想を言っていた。無邪気でよろしい。まあ、せいぜい私も楽しみにしといてやる。




 目が覚めた。7時くらい。昨日は9時くらいに寝たから、10時間くらい寝ていた計算になる。いつもの私の睡眠時間からはちょっと考えられないような時間だ。おかげで頭がすっきりした。


 立ち上がって、小さく伸びをする。朝の日差しがまぶしい。


 と、そのとき。


 あかねがまだ寝ていることに気づいた。

 

 あかねは、昨日なんか朝の五時くらいに起きて、皆を困らせたものなのに。まだ寝ているとは。


「おーい、起きろー」


 あかねの体を、足で軽くける。


「朝ごはん食べさせないぞー」


 すると、あかねが目を覚ました。ただ、その顔はどこか弱弱しく、青ざめた感じがあった。


「あ、ほのかちゃん、おはよう……」


 どこかに消えて行ってしまいそうな声だった。


 あかねのおでこに手を当てた。熱かった。


「髪の毛ちゃんと拭かないからだ、バカ」



 あかねは夏風邪にかかったようだ。すごく高温、というわけでもないが、人様の子なので医者に来てもらった。医者によると、はしゃぎすぎが原因で、一晩寝ればよくなるとのこと。



 私は、あかねのために、ちょっと遠くのスーパーへ買い出しに行くことにした。冷えピタと、おかゆに入れる三つ葉と、ほかいろいろ。


 スーパーへの道は、やはり暑く、セミがみんみん鳴いていた。気をつけてみると、セミの抜け殻が至る所にあった。あと、道端の雑草が、意外ときれいだと気づいた。道というのは、気にしてみれば意外といろいろなものがあるのだ。どうも、あかねと一緒にいると、あかねの方ばっかり気になって、そういうものに気がつかないようだ。


 

「ほい」


 あかねの枕元に、レジ袋を置く。 


「これって?」

「冷えピタとか、熱中症対策の飲み物とか。あとこれ」


 あかねのおでこに、スライスした豆腐をくっつける。


「ひゃっ」

「風邪にはこれがいいって、おばあちゃんが言ってた」

「冷えピタいらないじゃん」

「そんな気もする」


 私たちは、ちょっと笑った。ただ、あかねの笑い声は、やはり弱弱しかった。


 あかねというのは、私にとっていつもうるさい存在だ。そんな奴が、こう弱っていると、何というか、張り合いがないというか、そんな感じだ。


「じゃ、私は椅子持ってきてこの部屋で勉強でもするから、言いたいことあったらいいなよ」

「うん……」


 やっぱり、張り合いがない。


 すると、あかねが口を開いた。


「ごめんね」

「なんであやまる。風邪になったのはあかねでしょうに」

「私が風邪なせいで、ほのかちゃん、今日は遊ばないんでしょ?」


 まあ、実際、友達がへばってる中それをおいて遊びに行くほど、私も薄情ではない。


「気にすんな。別にこんなド田舎、遊べる場所なんてない」


 そう言ってやった。


「でも……」


 なんだこいつ。いつもとはまた違うベクトルのめんどくささだ。


「いいから寝てな」


 そう言っても、あかねは何か言いたげだった。私はため息をつく。


「じゃあ、一緒に寝てあげるよ」

「えっ」

「……別に深い意味はないよ?」


 そんなことを言って、まだ片付けていなかったあかねの横の布団にもぐる。そして、布団の中からあかねの手を探して、握ってやる。あかねの手は、やはり熱かった。


「手を握っていてやるから、さっさと寝なよ」


 この際、手を握ることと、あかねの安眠や罪悪感とは特に関係はない。私が手を握ることで彼女の風邪がよくなるわけでもない。つまり、これは特に意味のない行為だ。私もなぜ手なんて握ったのかは、よくわからない。ただ、なぜかこの場ではこれが最善の行為のような気がしたのだ。


 実際、あかねは安心したようだった。そして、しばらくすると、あかねは寝た。小さな呼吸音が聞こえる。そんな彼女を見ているうちに、私もだんだんと眠くなっていった―――



「ほのかちゃん、起きな―」


 目が覚めた。窓の外から、光が差し込んでいるのが見えた。


 時計を見る。6時。外が明るいから、きっと朝なのだろう。昨日あかねのことを見てたのは午後の3時くらいだったから、もう15時間くらい寝ていたということになる。なんてこった。疲れているのか、私。


「ああ、おはよう、あかね」


 あかねは元気そうだった。多分、風邪はもう治ったのだろう。いつものあかねに戻ってくれてよかった。これでこそ看病した買いがあるというものだ。


「もう元気なの?」

「うん、もう大丈夫そう」


 そういってあかねは笑った。


「よかったよかった」

「うん。ところでさ……」

「どうした?」

「この手って、いつ話せばいい?」


 手?そのとき、私はまだあかねの手を握ったままだということに気付いた。


「……なんで離さなかった?」

「だって、タイミングがよくわからなくて」


 タイミングってなんだよ。


「それにしても、寝ている間まで手を握っていてくれるなんて、ほのかちゃん優しい」

「……」

「あれ、顔赤くなってる?」

「うるせえ」


 手なんて、握ってやるんじゃなかった。



 そうして、私の里帰りは終わった。最後にはあかねはおじいちゃんたちにいつもの調子で挨拶をしていていた。元気なあかねの様子が見れてうれしそうだった。


 

 電車に乗って、東京へ帰る。あかねはシートを最大限までおろして、くつろいでいる。それにしても、今回の里帰りは、こいつに付き合わされてばっかりだった気がする。まったく、はしゃぎすぎて熱を出すなんて、小学生でもない限りやらないだろうに。まったく、こいつというやつは本当に――—


「ん、どうしたの?」

「……どうした、って?」

「いや、ほのかちゃん、私のことじっと見てたから」


 げっ。無意識のうちに。


「いや、なんでもないよ」

「ふーん」


 あかねはちょっと考えて、


「もしかして、私に見とれちゃってた?」


 だとか言ってきた。反論するのもめんどくさく、私はただ一言、


「ああ、そうだよ」


 とだけ言ってやった。

 頭のおかしいものを書くのに挫折したので、ライトなラブコメちっくなものを書いてみました。百合にした理由は、友達が百合を書いていて、いいなって思ったからです。(小並感)

 百合っていいよね。

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