4. 4~5才のはなし ②
【『冬の童話祭2024』用に作った連載文章です】
【この物語はフィクションです】
【登場する人物・団体・名称は架空であり、実在のものとは関係ありません】
【メスのワンコ視点での物語です】
日本のどこかの、とある町にて。
これは今から、12~13年ほど前の話。そしてここは・・・ん?誰だ?
「い、いや、あれはアサミが勝手にやったことで・・・」
昼過ぎの、ウチの玄関先で。オバサマが数名ほど集まって、おしゃべりをしている。この家の母親と、それ以外はご近所さんだな。あのさぁ、昼寝のジャマなんだけど?うるさいなぁ。
「だからと言って、あんな子供1人で犬の散歩をやらせたらダメでしょ?せめてお兄ちゃんと一緒にやらせるとか」
ふむ。見たところ、母親が怒られているな。母親はいつも私や家族に怒っているけど、ご近所には怒られてばかりな気がする。
「だから違いますって!アサミにそんなことはやらせてないです!・・・ああもう、そもそもあの子達が勝手すぎるのよ!それもこれも、コイツのせいよ!こんなのがいるからウチの子達は!」
コイツ・・・?誰のことだろう?
「あのねぇ。ワンコのせいにしてどうするのよ」
「こんなの飼うんじゃなかったわ。手間がかかるだけで、エサ代のムダよ。ちっとも懐きはしないし、いつも吠えてばかりで」
「そう?最近はそこまで吠えることは少ないけど?」
「・・・え?」
やめろ母親。そんな目で私を見るな。私だって、本当だったらオバサマ達がうるさいから吠えてやりたいけど――あっ。バスが来たので、しっぽを振ってキャンキャンと鳴い・・・ちちち違うし、べつに嬉しくなんかないからな?
「ただいまー・・・って。あれ?どうしたの?」
おいオバサマ共。文句があるなら母親ではなく、散歩した本人に言いやがれ。そのほうが話が早いだろ?あのさぁ、昨日の散歩のことで――。
・・・と、いうワケなんだよ。
「ほら見てよ。やっぱりコイツは吠えてばかりでしょ?」
なぜか偉そうにしている母親。だけどオバサマ共は慌てている。まあ見た感じは、この子に吠えているようにしか見えないだろうけど・・・心配しなくても、このお子様には噛みつかないって。
「アサミ。はやく家に入りなさい。さっさと着替えなさい」
幼稚園から帰ったばかりのお子様は、母親に背を向けて、私の頭を撫でている。おい勝手に触るのは・・・まあ、今日くらいは好きにさせてやるか。
「アサミ?聞いてるの?お母さんの言うことを」
「・・・あやまって」
お子様は、動こうとしない。
「え?アサミ?何を、言って」
「おかあさんでも、ゆるさない。えさだいのムダ、だなんて」
「――えっ!?」
ふん。オバサマってのは仲が良いんだな。みんな、同じ反応をしてやがる。だけどそんなに驚くことはないだろ?ガルルルル。
「・・・それもこれも、コイツのせい?こんなのが、いるから?こんなの、かうんじゃなかった?・・・おかあさん、そんなこと、いったの?」
「えっ、どういうこと!?それって、アサミちゃんが帰ってくる前の話でしょ?なんで、アサミちゃんが、そんなことを、知って・・・」
なんで、って。今、私が話してやっているんだが?
アサミは、オバサマ達には背を向けたまま。じっと私を見ている。そして私の頭を撫でていた手を、首輪に伸ばす。
「――このこが。ほえているのは、あそびたいから」
カチャリ、と音がして。オバサマ共が、また慌ててやがる。
「アサミちゃん!?まさか、鎖を外したの!?」
「だからわたしが、あそんでいるの。・・・きょうは、どうする?」
・・・クゥン。
「うん、そうだね。まずは、おすわり」
ハイハイ。これでいいか?
「よしよし。そのまま、まて」
アサミは私に目を向けたまま、ゆっくりと私から離れていく。オバサマ共は気が気でないようだ。犬の首輪から鎖が外れたら、普通だったらどうなるか。それぐらいは、大人だったら誰でも分かるだろ?
・・・だけど。今の私は、そんなことはしない。
「うん、そのまま。ずっと、わたしをみててね?」
はいよ。何も言わず、次の命令が出るまで待ってやろう。
「ア、アサミ?何を、やっているの?そんな危ないことは」
「待ちなさいよ。ここからアサミちゃんがどうするのか・・・」
まだ母親は混乱しているが、オバサマ共は静かになった。そういえばコイツらも犬を飼ってたっけ。たしか、ええと、パピヨンと、マメシバと、あとえっと・・・何だっけアレ。やたらモコモコしてたのは覚えているけど。
「こら。わたしを、みて。・・・ちなみにだけど、あれはトイプードル」
ああ、そうだった。ほんと、犬って色んな種類がいるんだなぁ。
――って。あれ?私、声には出していないよな?なのに、どうして・・・というのは、どうでもいいか。今はこっちに集中しようっと。
じーっ。私とアサミは、にらめっこ。
お互い、何も言わない。じっと見つめ合っている。
「お、おお。待てを3分もできるとは」
「ウチの子なんて10秒しかもたないのに・・・」
またオバサマ共がザワザワしてやがる。これって、そんなに変なのかな?私はただ、動かずに待っているだけなのに・・・。
「――よし。こっちに、きて」
はいよ。次は何をすればいいんだ?
「わたしのまわりを、グルグルまわって」
はいよ。走ってもいい?
「ふふっ。そんなに、たのしい?」
だから違うって。これは、その、
「な、何なのよ。いつの間に、アサミが、こんなことを」
「ふふん、どう?・・・このこと、おさんぽしていい?」
う、うん。そうだ。こうやって、大人達に分からせるためであって、こんなお子様と遊ぶのが楽しいだとか、間違ってもコイツを飼い主だと認めたわけでは、
「アサミちゃん、凄いわね。ちゃんと躾けられてるわぁ」
ギャウウウン!?ギャンギャンギャンンン!
「ハァ。この子がこんなに喜んでるの、初めて見たわ」
オイやめろ。母親までそんなことを言うのは・・・。
オバサマ共はいなくなった。今ウチの玄関にいるのは、母親とお子様。ついでに私の首輪には鎖を付けられた。まあ、外しっぱなしはダメだよな。
「いい?散歩はしてもいいけど、ちゃんと着替えてからにしなさい。それと・・・やっぱり、あまり遠くには行ったらダメ。公園で遊びなさい」
「はーい。・・・ごめんね。ちょっとだけ、ハウス」
はいよ。おまえの着替えが終わるまでは犬小屋で待っておこう。
「――ああ。そうだ、アサミ」
「ん?どうしたの?」
「最近、この子がやたら吠えるのは少なくなった気がするけど・・・もしかして、それもアサミが、そう躾けたの?」
「しつけ?ううん、ちがうよ。おはなししたら、わかってくれたよ?」
・・・ふん。
「そ、そう。ごめん、やっぱりお母さんにはよく分からないわ」
まったくだよ。私だって、どうしてこんなことになったのか。
「だって。このことは、いっしんどうたい、だもん」
「・・・アサミ。それ、意味分かってる?」
まったくだよ。誰がこんなお子様と、一心同体だって?
しょせんコイツは私にとっては、飼い主の妹でしか――。
・・・まあ、いいか。
「おまたせ。それじゃあ、おさんぽしよ?」
放ったらかしにされるよりは、はるかにマシだ。
だからこうして大人しく、幼稚園児のお子様に、散歩用のリードを握られて・・・歩く速さはこれくらいでいいかな?
ちちち違うし、べつにコイツの歩く速さに合わせているわけじゃないし。ただ、その、まだコイツはちっちゃいから、このくらいのほうが――。
ん?前方に、これまたちっちゃいヤツがいるぞ?
「おーいアサミ、いっしょにあそぼ・・・なんだコレ?」
それはこっちのセリフだ。誰だ?このボーイは。
そもそも外飼い犬って、今の現代だとマイナーだったりするの・・・?