表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンコはいつも寝てばかり  作者: レゲーパンチ
20/21

19. 16才のはなし ②

【『ふゆ童話祭どうわまつり2024』ようつくった連載文章れんさいぶんしょうです】

【この物語ものがたりはフィクションです】

登場とうじょうする人物じんぶつ団体だんたい名称めいしょう架空かくうであり、実在じつざいのものとは関係かんけいありません】

【メスのワンコ視点してんでの物語ものがたりです】

 日本にほんのどこかの、とあるまちにて。

 これはいまから、1ねんほどまえはなし。そしてここは、市内しないのアパート。



 いま夕暮ゆうぐれ。リビングのゆかかれた新聞紙しんぶんしうえに、ころんで。

「はい、ごはん」

 おう。・・・このにおい、は。『あるじ』、またカップラーメンか。

「いいじゃん。らくだし」

 ううむ・・・まあ、いいけど。

 わたしのごはんには手間てましまないのに、自分じぶんのごはんは適当てきとう。それが『あるじ』。実際じっさいはそれなりに料理りょうりもできる・・・というか、ちいさいころから1人(ひとり)留守番るすばんをすることがおおかったから、それで料理りょうりおぼえたとはっていたが。

 このアパート・・・じつ父親ちちおやいえごすときの『あるじ』は、ここでは絶対ぜったい料理りょうりをしようとしない。理由りゆういていないが、わたしにはかる。

 『あるじ』とおなじように。『あるじ』のあに・・・イサムも、1人(ひとり)留守番るすばんをすることがおおかったから、それで料理りょうりおぼえたとっていた。

 それで、イサムがこのいえにいたころは。『あるじ』や、当時とうじっていた彼女かのじょさんに、よく料理りょうりつくっていたんだ。このリビングのすぐそこに台所だいどころがあるから、わたしころんでいるところからでも、イサムの姿すがたえたんだ。

 なにをどうやっていたかまでは、いぬわたしにはよくからないが。イサムは嫌々(いやいや)いながらも、たのしそうに料理りょうりつくっていたのだけは、よくかった。きっとイサムも、1人(ひとり)でごはんをべるのがさびしかったのだろう。

 あの台所だいどころには、イサムのおもまっている。だから『あるじ』はけない。当時とうじイサムがいたときのまま、のこしている。父親ちちおや料理りょうりをしないそうだから、このままずっと、だれけることはいだろう。

 ・・・なぜなら。イサムはいま、そこにいるのだから。


「あっ!いまちょっとだけおにいちゃんがうつった!」

 『あるじ』は、テレビをているようだ。

「うーん、やっぱりベンチだとすこししかうつらないなぁ」

 『あるじ』がているのは、録画ろくがされたもの。どこぞかられたという、とある地方ちほうのサッカーの試合しあい。そしてその試合しあいにイサムがているのだとか。なぁ『あるじ』、ベンチというのはどういう役割やくわりなんだ?

役割やくわり、って・・・そもそもおまえ、サッカーがかるの?」

 フォワードとディフェンスのちがいならかる。ボーイがめのフォワードで、あのおねえさんがまもりのディフェンス。イサムもゴールキーパーだとかいうディフェンスの一種いっしゅ。それとはべつにミッドフィルダーというものが――。

かったもういい。・・・それもそうだね、あのころは3にんとも、ずっとサッカーばかりやってたよね。毎回まいかいねえちゃんの1人(ひとり)ちになっちゃうけど」

 そうそう。それで、結局けっきょくのところ。いまイサムは、なにをしてるんだ?

「うーん・・・ハッキリっちゃうと、ひかえの選手せんしゅ。おにいちゃんはまだ新入しんいりだから、おにいちゃんよりつよ人達ひとたちがいっぱいいるの。それでもし、その人達ひとたち怪我けがでもしたら、わりにおにいちゃんがたたかうことになる、ってところかな?」

 ふむ。つまり・・・イサムがもっとつよくなったら、もっとテレビにうつるようになる、ということか?もしくは、試合しあいる、とうべきか。

「まあ、そうなるかな?・・・あぁあ、わっちゃった」

 『あるじ』は残念ざんねんそうだ。ふかくはくつもりはい。


 なぁなぁ『あるじ』。ボーイはテレビにはないのか?

「・・・アイツのはなしはやめてくれる?」

 そうわれても、わたしにとっては甲斐がいひとつなんだよ。あのおねえさんはサッカーをめたから、そのかわりにイサムとボーイが頑張がんばっているのをたいんだ。それと『あるじ』にステキな彼氏かれしができるのもたいし。

「ふん。もうおまえ、ロクにえなくなってるくせに?」

 ああ。だからわりに、『あるじ』がてほしい。もしボーイが試合しあいることがあるのなら、わたしわりにて、その内容ないようおしえてほしい。

「・・・そんなに、アイツがきなの?」

 『あるじ』とボーイのうち、どちらか1人(ひとり)えらべとわれたら、なやぎてあたまがおかしくなるほどには、ボーイのことをっている。

 まあでも、『あるじ』がボーイをきらっているのなら仕方しかたがない。ガマンするよ。ボーイも学校がっこういそがしくて、最近さいきんえなくなったからなぁ。

「・・・ガマンは、ダメ。ガマンしたところで、いこといよ?」

 おおう、体験者たいけんしゃかたる、というものか。

「うるせぇ。・・・かったよ。ちょっとってて」

 『あるじ』はスマホを操作そうさしているようだ。

「――チッ、あるのか。まあいい、明日あしたにでもこっか?」

 おう。・・・ええと、どこに?


 翌日よくじつひる。キャリーバッグにれられて。

「・・・ふぅん」

 『あるじ』。ボーイはなにをやってるんだ?

「まあ、ボチボチ?とくうことはいよ」

 ここは、市営しえいのグラウンド、とばれるところらしい。

 うつ景色けしきはボヤけているけれど、においとおとかる。ここには人間にんげんがいっぱいいる。サッカーをやっている人達ひとたちと、サッカーをているひと数人すうにん

 私達わたしたちは、どうやらすみっこのほうにいるようだ。『あるじ』はとおくから、試合しあいている。なぁなぁ『あるじ』、ボーイは頑張がんばっているか?

「・・・ボチボチ」

 そうか。ちゃんと活躍かつやくしているのか。

 ・・・なぁなぁ『あるじ』、ボーイは頑張がんばっているか?

「・・・ボチボチ」

 そうか。いま休憩きゅうけいしているのか。

 ・・・なぁなぁ『あるじ』、ボーイは頑張がんばっているか?

「・・・ボチボチ」

 そうか。ベンチの選手せんしゅ交代こうたいしたのか。攻撃こうげきはもう十分じゅうぶんやったから、あとはまもりの選手せんしゅまかせる、ということだな?

わたしはそこまでってないんだけど?」

 かるさ。『あるじ』がおもっていることは、なんでもかるよ。


「さて、もういいでしょ?サッカーは一度いちどベンチにはいったら、もうその試合しあいにはれなくなるの。だからアイツは、今日きょうはもうたたかわない」

 そうか。だったら、試合しあいわってからいにかないか?

「は?なにってんの?」

 それぐらいはゆるされるのではないのか?

「・・・ダメ。わたしみたいな不良ふりょうが、ちかづいたらダメ。アイツの高校こうこうも、今日きょう対戦たいせん相手あいても、真面目まじめ学校がっこうだから。わたしなんかが、ジャマをしたらいけないのよ」

 ・・・だったら、その格好かっこうはもう、やめないか?

いやだ。これがわたしだ。わたしきなように、やってるのよ」

 だったら。これからも、わたしきにしていいか?

 今度こんどまたボーイの試合しあいがあったら。こう、してほしい。

「・・・そんなに、うれしいの?」

 イサムと、ボーイと、『あるじ』。それが、わたしのすべてだよ。

 それで、もっとよくえば。『あるじ』と一緒いっしょにボーイとおしゃべりしたいな。わたしっていることは、『あるじ』がいないとボーイにはつたわらないから。

「ふざけんな。それだけは絶対ぜったいいやだ」

 ・・・まあ、ぬまでに。できれば、いいさ。

「おまえはそう簡単かんたんにはしないよ。わたしがどれだけけてるとおもってんの?ごはんとからだ手入ていれと毎日まいにち運動うんどうと、最近さいきんではみずにもこだわって――」



 『あるじ』のおかげで、ここまできていられた。

 それだけは、真実しんじつ。それが、わたしほこり。

 『あるじ』は、本当ほんとうによくしてくれた。

 『あるじ』は、自慢じまんできるぬしだ。それがとっても、うれしいんだ。

「・・・ごめんね。もっとわたしはやく、病気びょうき気付きづけてたら」

なにってるのよ。ウチの先生せんせいも、アサミちゃんが説明せつめいしてくれるまでは気付きづかなかった、ってってた。アサミちゃんが、このにずっとっていたから、獣医じゅういでも見逃みのがしてしまうようなからだ異変いへん気付きづけたのよ」

 まったくだよ。いまさらながらおもうけど、『あるじ』ってなんなんだよ。

「やっぱり、アサミちゃんにはてそうにないや。わたしなんて」

「もうやめてよ、おねえちゃん。・・・ごめん、ね」

 『あるじ』があやまることはない。これも、わたしのワガママなのだから。

 ・・・ただ、最期さいごに。もうひとつだけ、ワガママがある。

「なによ。アイツとうのだけは、いやだからね」

 ああ、それでいい。むしろ、そうしてくれ。

 今度こんど大事だいじ試合しあいがあるんだろ?だからせめて、その試合しあいわるまでは。

 わたしのことはつたえないでほしい。かれのジャマだけはしたくないんだ。

 ・・・あとの心残こころのこりは。はかにでも、ってくよ。



 ゆめわる。

 そして、いまからわたしゆめる。

 こうなればいいな、とおもゆめを。

 わたし一番いちばん心残こころのこりが、くなるゆめを。

 ・・・なぁ、『あるじ』。

大丈夫だいじょうぶわたしはずっと、一緒いっしょるよ?」

 そう、だな。私達わたしたちは、ずっと一緒いっしょだった。

 おわかれのるまで、ずっと、私達わたしたちは――。

明日の最終回で完結できる・・・?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ