1. 2~3才のはなし ①
【『冬の童話祭2024』用に作った連載文章です】
【この物語はフィクションです】
【登場する人物・団体・名称は架空であり、実在のものとは関係ありません】
【メスのワンコ視点での物語です】
日本のどこかの、とある町にて。
これは今から、14~15年ほど前の話。そしてここは、私の家。
家とは言ったが、私は犬なので。
人間共が暮らす家の、その外に。私の家はある。またの名を犬小屋。
私の首元には、首輪と呼ばれる変なものが巻かれていて、それにはチャラチャラと音がする――鎖だとか言ったか?それが付いている。
・・・もう朝か。いつもと同じだ。
なにも、変わりはしない。ずっとそうだった。
「おう、おはよう。じゃあ行ってくる・・・ってオイ!?」
朝になったら、コイツが家から出てくる。だから、こうする。
「お、おいやめろ!朝っぱらからそんなに吠えるなって!」
知らんそんなの。ガルルルル。
「ううぅ、お前は相変わらずだな・・・」
うるせぇこのチビが。ランドセルだとかいう変なものを背負ったボーイを睨みつける。さっさと失せろ、顔も見たくない。
「ハァ、アンタ達ったら。またケンカしてるの?」
女の人が出てきたので、私は吠えるのをやめる。この人、怖いし。
「まあいいじゃないか。番犬なら、これぐらいがちょうどいいよ」
こっちの男の人は、この家の人間共の中では好きな人。仕事が忙しいだとかで、ほとんど遊んでくれないけど・・・。
家族と、いうのだろうか?この家で暮らしている家族は、父親と母親と、その子供。親が子供を産むのは、犬も人間も同じなのだろう。
ちなみに私はメスだが、子供はいない。作る気もない。これは後になって知ったのだが、私は子供が産めないようにされていたのだとか。
犬は、一度に多くの子供を産むから。その子供が親になって、また子供を産んで、その子供たちが親になって、また子供を産んだら・・・うん、この町はおろか日本のあちこちが犬だらけになってしまうな。
私には、人間の生活というものはよくわからないが。少なくとも、そんなことになってしまっては野良犬だらけになってしまう、というのはわかる。話に聞くには、野良犬は家が無いし、まともにエサも食べられないそうだから大変だよなぁ。私は飼い犬でよかったよ。
しかしながら、飼い犬でも子供を産む犬はいるので。そうなると、その家では飼いきれなくなる。一度に5匹も6匹も飼えるわけがない。
私も、そうだった。今となっては思い出せないけれど、私が生まれた家はここではない。別の家で生まれ、だけど子犬を5匹も飼えないだとかで、この家に飼われるようになったんだ。いわゆる、里子、というものらしいが。
・・・ボーイに気に入られてしまったのが、私の不運。あぁあ、あんなのが私の飼い主だなんて。嫌だなぁ。
ごろごろごろ。
ときには、犬小屋の中に入ったり。ときには、ウロウロしたり。ときには、寝ころがって、アクビして・・・ふあぁあぁ。
今はまだ、昼前。父親とボーイが出て行って、家の中には母親が・・・物音はする。何をやっているのかは、私にはわからない。
いつものこと。いつもの、毎日。
もうどれだけ、こんな、日々が続いているのか。覚えていない。
寝て。寝て。ウロウロして、また寝る。
時間になれば、エサをもらえるから食べる。そしてまた寝る。
これが、私。だって他に、やることもないし。
・・・だけど、ときどき。私は、こうする。
家の前――玄関だとか言ったか?ここが私のすべて。ここが私のナワバリ。ここに入ってくるヤツは、こうしてやる!
「すみませーん、宅配便で、うおっ!?」
うるせぇ。いきなりやってきたおまえが悪いんだ。誰だか知らないけど・・・いや、知らない人間だからこそ、こうしてやる!
「ちょ、やめ、そんなに吠えなくても、うわっ!?」
チッ、外したか。だけど次こそは噛みついて、
「ご、ごめんなさいね!?こらっ!いいかげんにしなさい!」
・・・チッ。母親を怒らせるとエサ抜きにされてしまうからな。今日はここまでにしてやろう。あとは勝手にしやがれ。
また時間が過ぎて。
・・・家の外を、ボンヤリと眺めるだけ。
ここは、人間共が暮らす家が、いっぱいある。だから人間もいっぱいいる。そして人間だけではなく、私のような飼い犬も――。
おっ?アイツはチワワだとか言ってたな。よう、元気?
「うわ、ここのお宅ったら。相変わらず、やかましいわねぇ・・・」
チワワの飼い主は、なぜか私をイヤそうな目で見ている。そして足早に、どこかに歩いて行った。あのさぁ、まだおしゃべりしてるんだけど?べつにケンカしてるわけじゃないから、もうちょっと話をさせてくれよ。
・・・うらやましいなぁ。アイツは毎日のように散歩ができて。私の飼い主なんて・・・ケッ。まあいいもん、帰ってきたらまた噛みついてやる。靴をズタズタにするのもアリだな、それに、
「――ど、したの?」
アァン?誰だ、ここに勝手に入って来るのは・・・。
ああ、なんだ。おまえか。アイツの妹か。
私の目の前にいるのは、2才か3才か・・・それぐらいの、小さな人間。といっても、犬の私よりはだいぶ大きいけれど。
少し前までは母親が手に持っていたり、ベビーカーだとかいうのに入ってた気もするが。おまえも1人で歩けるようになったのか。
「ん。・・・さみ、しいの?」
フン。ていうか、おまえ。さみしいの意味、わかってんのか?
「ん。わたし、も。おにいちゃん、まってる」
・・・フン。あんなヤツなんて、どうでもいい。
――あれ?
「ん?どしたの?」
私は、グルルルルと、声を出している。
「んん?うん、そだよ?」
コイツの言葉は、たどたどしい、というのか。お子様だから、うまくはおしゃべりできないようだが。なんとなくは、コイツの言っていることが、わかる。
「うん。おしゃべり、しよ?」
だけど私は、犬なので。人間の言葉なんて話せるわけがない。だから私は犬らしく、ワンワン、ギャンギャン、ガルルルル、と、
「あはは。おかあさん、こわい?」
・・・コイツ、まさか。いやでも、そんなこと、は、
「んー・・・ごめん。それ、なに?」
おっと。お子様には難しかったか。それなら、
「・・・ふうん。ずっといっしょ、ってこと?」
うん、そういう意味らしい。一心同体。私もよくはわからないが、おまえの兄ちゃんが言っていたんだ。オレとおまえは一心同体だ、って。
「あー。たぶん、それ。アニメ」
・・・ごめん。アニメ、ってなに?
「こらっ!いいかげんにしなさい、って言ってるでしょ!」
ビクッ!?声をしたほうに顔を向ける・・・。
うわぁ、母親がおっかない顔をしてやがる。しかしながら、私がワンワン吠えたせいなのか。母親は慌てた様子で、子供を抱きかかえた。
「ダメでしょ。この子に近づいたら噛まれるわよ?」
・・・私は、クゥン、と。鳴いてみる。
「おかあさん。みず、かえて、って。いってる」
「えっ?なんの話?そんなことより、早くウチに入りなさい」
・・・うん。私、寝ボケてないよな?これって、夢じゃなくて――。
もしかして、完結するまでは公式企画作品としては認められないの・・・?