14. 13才のはなし
【『冬の童話祭2024』用に作った連載文章です】
【この物語はフィクションです】
【登場する人物・団体・名称は架空であり、実在のものとは関係ありません】
【メスのワンコ視点での物語です】
日本のどこかの、とある町にて。
これは今から、4年ほど前の話。そしてここは、大きな公園。
ふあぁあぁ。今日も、いい天気だ。昼過ぎだから、暖かいし。
「・・・なんだ、兄貴も来てたの?」
「おう。なんだ、お前は相変わらずだな」
まったくだよ。兄妹揃って、変わりはしないな。
ベンチに座る『あるじ』と、それを見下ろすイサム。私は・・・腹を丸出しにして、芝生に寝っころんでいる。友達の雑種と一緒に。
「まったく、だらしのねぇワンコ共だな。いくら天気が良いからって」
「違うよイサム、これは信頼の証だよ。耳や口元の様子によっては違う意味にもなるけど、この場合はリラックスしている・・・もとい、安心してリラックスしていられる、って意味なの。人通りの多い公園でこんな体勢で寝るのは、アサミちゃんを信頼している、って証拠なんだよ?」
イサムの隣には、彼女さんが。しゃがんで、私達を見ている。
「やめてよ、お姉ちゃんったら。これはただ単に、お姉ちゃんの子がちゃんと躾けられてるからだよ。・・・と言っても、私の方がお利口さんだけどね。この辺りは長年に渡って面倒を見てきたところもあるけど」
「まあ、そこは認めるかな?私はどうしても甘やかしたくなるからなぁ。・・・だけどウチの相棒の方が可愛いわよ、ふっふっふ」
「ええぇ、お姉ちゃんの子はどちらかと言えばカッコいい路線でしょ?」
・・・この2人も、変わらないな。そんなに褒めるなよ。
「やめろ。それ以上はやめろ。お前らがその手の話を始めたらマジで日が暮れるからやめろ。それより・・・そろそろ行こうぜ」
イサムは呆れ顔だ。悪いな、いつもいつも、最後まで。
『あるじ』は、手に持っていたリードの1本をお姉さんに渡す。すると友達は元気よく吠えながら、自らのあるじのもとへと行った。若いっていいなぁ。もう13才になる私には、2~3才のワンコが羨ましく思うよ。
「じゃあなお前ら、俺達は忙しいんだ。後はお前ら2人で仲良くやってろ」
「・・・チッ、クソ兄貴が。どうぞ、お達者で」
『あるじ』、舌打ちはやめてやれ。まったく、素直じゃないなぁ。
そしてイサムは彼女さんと、そのワンコと一緒に、仲良く歩いて行った。あとに残るのは、私と、『あるじ』と、もう1人。サッカーボールを小脇に抱えた、ジャージ姿のボーイが、こっちに近づいて来る。見るからにボロボロだな。
「ううぅ・・・最後まで、ダメだったよ」
『あるじ』の隣に座るボーイ。距離感はそこそこ近い気がする。
「最初の頃と比べたら、はるかにマシになったとは思うけど?」
「そうか?だけどアサミにサッカーのことなんて分かんないだろ?」
「お兄ちゃんの影響で、そこそこ分かるんだけど?悪い?」
・・・お兄ちゃん、か。
今となっては。イサムの前では、絶対に使わない言葉だ。
「なあアサミ。これで、本当にいいのか?」
『あるじ』は何も答えない。
「イサム兄ちゃん、明日の夕方には出発するんだろ?」
『あるじ』は何も答えない。
「とても、遠くに。いつ帰ってくるかも分からない、って言ってたぞ?」
『あるじ』は何も答えない。
「あ、そうか。出発まではまだ時間があるから、明日の昼とかに」
「どうぞ、お達者で。とは、言っておいたから」
・・・今度はボーイが、何も言わなくなった。
「出発までは、お姉ちゃんのお家で過ごすだろうからね。・・・一緒に、あの2人のジャマをしに行く、っていうのなら。会いに行ってもいいけど?」
「・・・それは、無理だよ。兄ちゃん達、明日には別れちまうのに」
イサムは、サッカー関係の仕事。あの人は、大学に進学。
私達は13才だけど、あの2人は5才上の、18才だから。高校を卒業した今、また新しい場所へと行かなければいけない。
そして。それぞれ、この町を出て行くけれど。行先の方角が違う。距離もだいぶ離れている。そもそも2人は、新しい場所で頑張らないといけない。
――だから、どれだけ仲が良かったとしても。別れるしか、ない。
「あぁあ。私も、ああいう恋がしたいなぁ」
「無理だろ。アサミって並みの男子よりも強いから、普通の男じゃ付き合いきれな痛い痛いやめろやめろ耳をつねるのはマジでやめろ」
「・・・ふん。相変わらず、デレカシーがないなぁ」
「うぐぐ痛ててて。あのなぁ、だからそういうのを直せって」
「ふん。気に入らない奴は、力ずくでねじ伏せればいいのよ。それよりお前こそどうなの?好きな人とかいないの?もしくは告白されたりだとか」
「うーん・・・そういうのは、無いなぁ」
「ふぅん。意外だね、サッカー部ではエースのくせに」
「それがさぁ。お前って彼女がいるだろ、って言われるんだよ。オレは今まで一度も彼女なんてできたことが無い、って何度も言ってるはずなのに」
「気が合うね。私もだよ。彼氏なんていない、って言い続けている」
「小学生の時なんか、よくそれでネタにされてたよなぁ。オレとアサミが付き合ってる、だなんて。まったく、どこをどう見れはそうなるんだろうな?」
「そうだよねぇ・・・何でなんだろ?私にも分かんない」
・・・どうせ『あるじ』が怒るだろうから、何も言わないけど。
どこをどう見ても、ボーイが彼氏、『あるじ』が彼女で、間違いないよな?公園のベンチに仲良く座って、しかも距離も近くて、話のネタも尽きない。
そして、この関係が・・・ええと、ボーイと会ったのは何才の時だったかな?とにかく、その頃から今に至るまで、ずっとこんな感じ。だけど2人は付き合っていない、普通の友達だとかと言い合っている。これって、どういうことなの?
それから、しばらく経ったが。2人のおしゃべりは終わりそうもない。
・・・ハァ。もう、疲れた。クゥンクゥン、と鳴いてみる。
「ん?そろそろ帰りたい、って?」
うん。ボーイも、それでいいかな?
「ねぇねぇ。この子が、もういいか?、って聞いてる」
「うーん・・・オレはもうちょっと練習してるよ」
そうか。じゃあなボーイ、怪我はするなよ。
「怪我はするな、だってさ」
「おう。じゃーな、また明日」
・・・ハァ。明日もこの2人に悩まされるのか。
別に嫌ではないんだ。だけどこの2人を見ていると、もどかしいというか、もういいかげんに付き合いやがれ、って気持ちになってしまって。マジでしんどい。
いまだに人間というのは、不思議に思う。愛し合う男女がくっ付いたかと思ったら、ケンカして別れたり。好きな者同士なのに、別れないといけなかったり。『あるじ』達は・・・これもまた不思議だ、としか言えないけど。
思えば私の周りにいる人間の男女は、どれもこれも最後は離れてしまうものばかりだ。『あるじ』の両親も・・・ケッ、あぁあ嫌だ。
実を言えば、家に帰るのは嫌なんだよなぁ。私も、『あるじ』も。
・・・あんなのが、父親ぶっている家だなんて。嫌だよ。
家に帰って。首輪に鎖を付けられる。
「ああ、お帰りアサミちゃん。イサム君は、どうだった?」
・・・グルルルル。
「うぐっ。相変わらず、僕には懐いてくれないなぁ。仲良くしようよ?」
「無理だと思うよ?お父さんでは、絶対に無理」
『あるじ』にとっては、2人目の父親。そんな男を見上げる『あるじ』の顔は、普通に見れば楽しそうな表情、に見えるだろうが。
「ハハハ、まあいいや。お母さんが待っているから、ウチに入ろ?」
――『あるじ』の心の中は。語るまでも、ないだろう。
コレ期限までに終わるの・・・?