13. 12才のはなし
【『冬の童話祭2024』用に作った連載文章です】
【この物語はフィクションです】
【登場する人物・団体・名称は架空であり、実在のものとは関係ありません】
【メスのワンコ視点での物語です】
日本のどこかの、とある町にて。
これは今から、5年ほど前の話。そしてここは、大きな公園。
お昼。あたたかい。
芝生のうえで、ゴロゴロと。寝っころがる。
「あーチクショー!やっぱり勝てねー!」
「オイオイ無理すんな。そのまま寝てろ」
すこし離れたところで、少年も寝っころがっている。いつものことだが、サッカーというものは、そんなにおもしろいものなのか?
あんなに疲れるまで、フラフラになるまで、ボールを追いかけて。少年のすぐそばには、すこし年上の・・・お兄さんとお姉さん、とでも呼んでおくか。
少年とお兄さんは、ジャージだとかいうスポーツ用の服。お姉さんは、ワンピースとよばれるもの。見るからに、スポーツ用の服ではないな。
「よぉし、もう1回ヤってやる。今度こそ・・・」
おっと。またボーイが立ちあがって、ボールを足元で転がしはじめた。
そして勢いよく走り出し、突っ込む。お姉さんの方に。
「う、うぐ、やっぱり、抜けな、ギャン!?」
しかし数秒もたたずに、地面に寝っころがるボーイ。ボールはお姉さんの足元に収まっている。・・・もう一度言うが、この人はワンピース姿である。
「う、うう。イサム兄ちゃん、なんかアドバイスない?」
「アドバイスも何も、無理だな。だって俺でも勝てねーんだよ」
「もう・・・私のこと、何だと思ってんの?」
同い年の彼氏や、その弟分よりも強い女、かな?
・・・ここの公園は、本当にいいなぁ。ここはお姉さんの家に行くついでに知った、お姉さん家の近所にある公園だけど。私の近所にある公園に比べたら、とても広くて、自然も綺麗で。いつ来ても、見てて飽きない。
そして。この公園は、とても大きいから。
あちこちから、声がする。私は犬だから、よく聞こえてしまう。
本来の私だったら。こんなところでは、こうして寝てはいられない。うるさくて、気になって、どうしようもない。おちつかない。
だけど、寝ていられる。とても気分がいいんだ。おまえも気分がいいだろ?
「クゥゥン・・・」
私のすぐそばには、別のワンコが気持ちよさそうに寝ている。
コイツはお姉さんのワンコで、雑種だとかいう犬だけど。お姉さんが男共の相手をしている間は、『あるじ』が預かっているんだ。
「・・・ふふっ」
そしてベンチに座って。楽しそうに、私達を見下ろしている女の子。
2本のリードを手に持った、私の『あるじ』。犬の飼い主。私と同い年。『あるじ』が言うには、私達は12才らしい。
「なんだ、お前は相変わらずだな」
そんな、私のそばに。イサムが来た。
「――チッ、こっち来ないでよ」
イサムは、私を見ていない。『あるじ』を見ている。
「なあ。たまには一緒にやってみないか?」
『あるじ』は、イサムの顔を見ようともしない。
「うるさい。私はこの子さえいれば、それでいいの」
「いや、そんなに嫌がることはねぇだろ・・・?」
「ふん、だ。さっさとサッカーの続きをすれば?」
まあ、これも。いつものこと・・・いや。
「ハァ、少し前までは、お兄ちゃん、って。甘えてたくせに」
「うるせぇ。私だってもうすぐ中学生なんだ。さっさと行ってよ、クソ兄貴が」
ここ最近になって、そうなったんだ。
イサムは他にも何か言ってきたが、『あるじ』は何も答えず、イサムを見ようともしない。しばらくすればイサムは諦めて、また3人でサッカーを始めた。
・・・『あるじ』。本当に、いいのか?
「いいのよ。このほうが、お兄ちゃんが幸せだもん」
・・・そう、か。
だけどやっぱり、諦められないんだろ?
「うるせぇ。やっと諦めがついたんだから、もう言わないでよ」
イサムのためなら、死んでもいい。そう、言ってたくせに?
「それで、お兄ちゃんが幸せになるのなら、ね」
・・・今のイサムは、幸せだと、思うか?
「そりゃあそうでしょ。彼女とはラブラブで、手間のかかる妹は離れて行って。どこをどう見ても、ハッピーじゃん。だから、これでいいのよ」
・・・たった一言、言えばいいだけだろ。お姉さんのように。
「・・・うるさい」
あの人のように。イサムを愛する、と。言えばいいのに。
「馬鹿じゃないの?兄妹で愛だのなんだの、言えるわけないでしょ?・・・それだけは、言ってはいけないのよ。私は、血の繋がった家族なんだから」
だからといって、あそこまで毛嫌いはしなくてもいいだろ?
「・・・お兄ちゃんは、優しいから。こうでもしないと、私から離れない。お兄ちゃんのジャマだけは、したくはない。だからジャマな妹は、こうしたほうが」
やめろ。自分のことを、そう言うな。
昔から、ずっとそうだ。本当の気持ちを、ずっと隠して。イサムの幸せが何だと考える前に、自分の幸せを考えろよ。『あるじ』だって、少しくらいは、
「私の幸せは、お前と一緒にいること。・・・ダメ?」
・・・クゥン。
私は、眠たいので。グルルルと、声を出すだけ。
「ん?・・・ああ、それはボチボチ考えようかなぁ、って」
いいのか?そっちも、諦めるなんて。
「お父さんも、お母さんも、どうしようもなかった。だから離婚する。そして子供が2人いるから、半分こになるだけ」
イサムは何度も言っていただろ?一緒に暮らさないか、って。
「だから、そうしたらお兄ちゃんのジャマになるでしょ?」
・・・それなら。『あるじ』が幸せになる方法を、思いついた。
『あるじ』も、彼氏を作ってラブラブすればいい。
「無理。お兄ちゃんよりイイ男なんて、いないもん」
いや、ハッキリ言うなよ・・・って。
ふと思ったが。そもそも『あるじ』って、彼氏がいたよな?もう何年もの、長い付き合いになる男の子が。ほら、あそこに・・・ヒイッ!?
「誰が、アレが、彼氏、だって?」
う、うう、だけど『あるじ』とボーイって、昔から一緒に遊んでいるし、朝はほぼ毎日一緒に学校に行ってるし、今日もこうしてデートをヒイィィやめろ、そんな怖い顔はやめてマジで怖いですやめてください。
「アレはただの友達。・・・ほかに何か、言いたいことはある?」
う、ううう、えっと。ああ、その。いい、天気だなー。
「・・・そうだね。いい天気だね」
この頃が、一番楽しかったと思う。
アイツと、アイツと、あの人が、サッカーボールを追いかけて。そしてそれを、ベンチで眺めている『あるじ』。
『あるじ』は、本当は言いたいことがあったのに。ただ、見てるだけ。思っていることを、言わないから。言おうとしないから。
――それでも。そういう『あるじ』を見るのが、好きだった。
私の前だけでは正直になる、普通の女の子。
まるで私の子供か、妹のような。可愛い、年頃のお嬢ちゃん。
「は?私が、お嬢ちゃん、だって?」
ふふん。こんなことで怒るだなんて、お子様だなぁ。
サブタイ分かりづらくない・・・?