表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ウンディーネ公爵邸編
98/204

第98話 ウンディーネの呪い(5)

マーロンの契約の魔法陣に呼応するように、メイリーンとテシオの周囲に魔法陣が生じる。幾重にも重なる魔法陣がふたりを取り囲む。


「カエン、氷の障壁を広げろ!おふたりはそのサイズに合わせて後ろへ!」


マーロンが叫ぶと3人は言われた通りに実行する。


ふたり(テシオとメイリーン)の周囲に契約の魔法陣は更に広がる。マーロンの持つ契約書には更に魔法陣が増えていく。


「いったい何が⁉︎」


「これは想定外だ……ふたりの持つ魔力が大きすぎて、移乗に手間取っている」


シェリルの言葉に返事をするマーロンは、歯をぎりっと噛み締めている。契約書を持つ手も震えている。


シェリルはテシオとメイリーンを見る。


ふたりは怯えるように抱き合っているが、変化はない。周囲に契約を施行しようとする魔法陣が増えていくだけだ。


たかが魔力の移乗ではあるが簡単ではない。ふたりの中にもつ魔力と属性をすべて分析し、それぞれに移乗するのだ。簡単ではないことは分かっていた。だからこそマーロンが術を施行することにしたのだ。


「お祖父様、頑張ってください!」


「現役から退(しりぞ)いたとは言えど、お前はヴルカン当主だったんだ!気張れ!」


孫であるシェリルと、最愛の妻であるノワールの一言でマーロンは更に魔法を行使する。


魔法陣が次々と増える。まるでマーロンを取り囲むように。それに呼応するように風が吹き荒れる。


ざぁざぁと吹き(すさ)む風が花々を揺らし、樹木が大きくたわむ。木々の葉が狂ったかのように空に舞い上がる。舞い上がった葉は、カイゼルが庭園を取り囲むように作った結界にぶつかり、その場にベタベタと張り付いていく。


「凄まじい魔力だ!」


カイゼルがその威力に歯噛みする。結界を維持する事が精一杯で余裕がない!


アントノーマは空に散らばる髪を気にすることなく、祈りを捧げている。もうそれしかできないように。


「テシオ……怖い……」


メイリーンが恐怖から漏らした言葉を聞き、テシオは目を見張る。繋いだ腕が黒く染まっていく。メイリーンの首も墨に塗られる様に徐々に黒くなっていく。


その時――翻ったスカートの足は真っ黒だ。真っ黒な足から、腕から、身体中から黒い煙が溢れていく。まるで雨雲が広がり空を黒く染めていく様に。


「メイリーン!」


テシオは聖属性の魔力を強める。メイリーンの瘴気を押し込めようというのだ。その痛みにメイリーンは悲鳴をあげる。


「キャア――――――――――」


悲痛な悲鳴が上がる中、それでもテシオはメイリーンを抱きしめる。テシオの体も徐々に瘴気に染まっていく。腰につけた浄化石も濁りが強くなっていく。


「アーマンディ様!もっと魔力を強めて!」


「はい!」


ジェシカの言葉でアーマンディは魔力を強める。


目の前の妹は嘆きながら悲鳴を上げている。痛みからあげる悲鳴が心に刺さる。その痛みを代わってあげられたらと思うが、それをする方法はない。


なんて無力なんだろう。自分の未熟さが心に突き刺さる。スピカ神の力を頂いても何もできない。今だってお借りしているのに、そのお力を全て発揮することができてないことが分かる。悔しいくらいに……。


カエンが作る氷の障壁の中も黒く染まっていく。それはどす黒い瘴気の色だ。瘴気がメイリーンを隠し、更にテシオを隠す。ふたりの姿は夜の闇に消えるように、徐々に徐々に見えなくなっていく。


更にマーロンが作る委譲の魔法陣もシャボン玉の様に割れていく。メイリーンから溢れる瘴気に負けているのだ。


「テシオ、メイリーン!」


カエンが叫ぶと、テシオの声が聞こえた。


「もう無理だ!シェリル様、お願いします!」


「――――っ、あ、し、シェリル様!お、お願いです、人のままで殺してください‼︎」


「メイリーン、テシオ、諦めないで、ジェシカ様!もっと魔力を!」


アーマンディの懇願に、ジェシカは首を振る。


アーマンディはカエンを見る。カエンは歯を食いしばっている。カエンが作っている氷の障壁は今にも割れそうだ。ひびが入ったところから直しているが、限界が近いことは分かる。


ジェシカは満身創痍だ。額からは汗が垂れている。若々しくても老齢の彼女がこれだけの術を行使し続けることは難しい。


マーロンは膝をがくりと落とした。マーロンの周囲に生じていた魔法陣が、その意に反発するように消えていく。


そして、シェリルが腰の剣を抜く。決意を込めた瞳をして……。


「ま……待って、シェリル待って。もう少し、僕が術を強めるから!」


シェリルはアーマンディを見る。


「もう無理です。分かっているはずでしょう」


カイゼルとアントノーマは(こうべ)を垂れている。シェリルに懇願するように。苦しむテシオとメイリーンを早く解放して欲しいと願っている。


ノワールはジェシカの後ろについた。ジェシカはもう限界だ。膝がガクガクと震えている。立っているのもやっとだ。その姿を見て、ノワールはシェリルに早くしろと合図を送っている。


ホムラはアーマンディの後ろだ。孫を救おうと、タイミングを伺っている。同時にメイリーンとテシオの最後の姿を心に焼き付けようと、涙を流しながら見ている。悲痛な表情がシェリルの心を掴む。


カエンはシェリルはじっと見ている。誰よりもメイリーンとテシオの近くにいるカエンにはふたりの苦しみが分かっているのだろう。その表情は、ふたりをこの苦痛から解放して欲しいと涙ながらに物語っている。


誰もがふたりの解放を願っている。カエンが作る氷の障壁はもう真っ黒だ。そしてその中からはふたりの悲鳴が聞こえる。きっと瘴気に蝕まれ、人の姿を捨てようとしているメイリーンを、テシオが必死で留めているのだろう。今なら間に合う。ふたりを人のまま死なせることができる。


シェリルは魔法を行使しようと剣を掲げる。初めから作ってあった魔法だ。剣の一振りで簡単に行使できる。メイリーンとテシオを苦しめないように一瞬で消滅させる。


剣を振ろうとした瞬間、声が聞こえた。聞こえた声で身体が縛られる。まるで動くことができない。まさか、こんな方法を使うとは!そして契約の魔法にこれほどの力があるとは!


「シェリル!魔法を使わないで!動かないで!これは命令です!」


アーマンディの声が響いたと同時に、カエンの作った氷の障壁に大きくヒビが入った。

毎日12時に投稿します。

面白かったらブックマーク、下の評価よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ