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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ウンディーネ公爵邸編
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第97話 ウンディーネの呪い(4)

薄いガラスのような氷が張られた。氷は綺麗な半円状だ。


「アーマンディ様、1、2で魔法を発動するわよ」


ジェシカの言葉にアーマンディは頷く。


その姿をシェリルは少し離れたところから見ている。その横にはカイゼルとアントノーマがいる。


「祖父母は庭にいると聞いているが?」


腕組みし、視線を動かさないままシェリルはカイゼルに問いかける。


「はい、私の父と共に奥庭に」


「奥庭か。確かこの本邸の裏手にある庭だな。建物に囲まれているから多少何かあっても平気だということか……」


「はい、私も結界を張ります。それで周囲には気が付かれないはずです」


視線を落とし、深く頭を下げるカイゼルは全ての覚悟を決めているようだ。


「分かっていると思うが、私は全てにおいてアーマンディ様を優先する。少しでも危険と感じれば容赦なく娘と息子を焼き尽くすつもりでいるから、覚悟はするように」


「……委細承知しております」


「お前達も含め、今回のことでウンディーネ公爵一族の誰かが死ぬことは許さない」


「はい。アーマンディの心に、これ以上の傷は残せません。もしそうなったら場合は、寿命尽きるまでアーマンディの心に寄り添い、慰める所存でございます」


シェリルは眉をあげる。メイリーンとテシオの気配が近付いてきた。まずはここでメイリーンの瘴気を抑えられるかどうかが鍵だ。


「念のために結界を張れ」


カイゼルは視線を上げて、前を向く。魔法の発動のために。


「それと……アーマンディ様の心に寄り添うのは私の仕事だ。余計な手を出すな……義理父上」


ふっと笑ってシェリルも魔法陣を構築する。その姿を見てカイゼルも微笑む。


シェリルの先に、避難路から伸びる手が見えた。




◇◇◇




テシオの鼻歌が響く廊下を皆で歩く。


テシオはメイリーンと手を繋いで、兄のカエンが作った円錐状の氷の障壁の中にいる。アーマンディとジェシカはその横を聖属性の魔法を発動させながら歩く。少し歩きにくくはあるが、カエンの作る氷の障壁は滑らかに魔法の発動を助けている。


「いや〜、シェリルねーさんの魔法陣が見えた時にはビクッとしたけど、なんともなくて良かったよ」


この緊迫する空気の中でもテシオの態度は変わらない。横に並ぶメイリーンの表情は真っ青なのに。


先導する形で歩くカイゼルとアントノーマは何も話さない。余裕がないと言っても良い。


全員を見渡せる後ろにシェリルはいる。今のところ疑似避難路、聖域は安定しているように見える。


アーマンディに余裕はない。魔法を発動させる事で手一杯だ。ジェシカは魔力の調整をしている。余裕はあるが、雑談できる状況ではない。


カエンは氷の調整をしている。状況に応じ、形を変えなければいけない上に、少しでも穴を開けるわけにはいかない。精密な魔法を作り続けるのは難しい。


シェリルはそんな彼らすべての一挙手一投足を見逃すまいとしている。異変があれば、すぐに攻撃に移れるように。


「……テシオ、うた……歌って」


「えー、またなの?俺はあんまり歌が上手くないって知ってるでしょう?なのになんでメイリーンはさっきから歌え、歌え、って言うの!」


「こ…怖いの……お、お願い……」


メイリーンの服の袖からは、たまに瘴気が揺れて出てくる。それを抑えているのはテシオだ。実はテシオも魔法の発動を続けている。緊張している妹と皆のために、話をして誤魔化そうとしているのだ。


「もうー、かわいいメイリーンの頼みだから仕方ないなぁ!無事におわったらメイリーンが歌えよ!」


「う……うん、うん」


必死で返事をするメイリーンはやはり怖いのだろう。地上に出たのは何年ぶりだろうか……もう分からない。


再びテシオの鼻歌が響く。メイリーン以外、誰も知らないその歌を聴きながら、皆はゆっくりと歩む。


5階から1階へ。邸内から屋外へ。そしてその先にある奥庭には、シェリルの祖父であるマーロンがノワールと共に立っている。横にはアーマンディの祖父ホノラが立つ。皆が緊張してる面持ちだ。


「こちらの準備はできています。契約の魔法は結界内でも作用しますのでこのままで。始めて……宜しいですかな?」


初めて聞いたシェリルの祖父、マーロンの声にアーマンディはゆっくりと頷く。

聖属性の魔法を行使し続けて疲れてはいる。緊張から汗も落ちてくる。だけど、重低音で響くマーロンの声は穏やかで、アーマンディの心に染み入るようだ。


「私は大丈夫よ。メイリーン、テシオは大丈夫?」


ジェシカに聞かれたふたりは互いの身体をぴったりくっつけ、震えるメイリーンの両手を覆うようにテシオが手を握っている。


「俺は大丈夫!メイリーンは?」


「わ……私は……」


メイリーンの声は震えている。その唇は真っ青だ。


氷の障壁を張り続けるカエンはまるで気にしていないように声をかける。


「メイリーン、終わったら一緒に旅行に行こう。テシオは置いて……ね」


「兄様……」


「メイリーン、ドレスは裾を合わせるだけなの。これが終わったらお願いね。あなたをぎゅっと抱きしめたいわ」


アントノーマが少し離れた所から声をかける。


「メイリーン、それとテシオ……今年のお前達の誕生日は初めて家族揃ってやることになる」


カイゼルはアーマンディを見る。


「出てくれるな?」


「はい――父様。一緒にお祝いしましょう‼︎」


アーマンディが潤んだ瞳で返事をする。


「姉様のケーキが食べたいわ」


「メイリーンのために大きなケーキを作るね」


お互いの涙が一粒落ちたと同時に、マーロンが一歩前に出た。


そこで合図のようにカイゼルが庭園を取り囲む結界を作る。これで周囲から気が付かれることはない。


シェリルは炎の魔法の準備をする。いざとなった時に一瞬で終わるように。


そしてマーロンとホノラはアーマンディとジェシカの周囲に結界を張る準備をする。万が一の際にシェリルの炎に巻き込まれないように。


「ではこれから契約の魔法を施行する!『メイリーンとテシオは合意の元、互いの魔力を委譲する』!」


マーロンが契約書を掲げた同時に、周囲に幾重もの魔法陣が生じた。

毎日12時に投稿します。

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