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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ウンディーネ公爵邸編
95/204

第95話 ウンディーネの呪い(2)

聖女の館の下にある円形の避難路でふたりは手を繋いで待っている。


良かった、一瞬で。最近、特に増えた……。


心の中でテシオは呟く。

テシオには誰にも言っていない秘密がある。相談すべき相手がいないとも言える。無事に終われば家族以外の誰かに相談したい事。


「ねぇ、テシオ、この下には何があると思う?私、ずっと気になっているの」


いつもと変わらないメイリーンは足元を見ている。テシオもその視線の先を追う。


「気にならないと言えば嘘になるけど、なんかこの下を見てると背中がゾワゾワするんだよね。近づいちゃいけない雰囲気?好きじゃない。でも気にはなるし……複雑だな?」


「ゾワゾワ?私は哀しい気持ちになるわ。なんだか泣きたくなるの」


「哀しい?そんな気持ちにはならないけどなぁ……ん?あ、ジェシカ様だ!」


ふたりは揃って上を向く。すると聖女の館から避難路を通り、ふわりとジェシカが降りてきた。足音も立てずに床に降り立ったジェシカは緩やかに微笑む。老齢ではあってもさすが風属性の魔法が得意なシルヴェストル一族なだけはある。その魔法の使い方は繊細で華麗だ。


「ふたりとも揃っているわね。さぁ。乱暴ものが来るから避けましょう」


ジェシカと共にふたりは端へ寄る。すると、ごうっと風の力が溢れ、勢いよくシェリルが降りてきた。シェリルの魔法の勢いで、三人の髪が宙を舞い、ジェシカとメイリーンのスカートが翻る。


シェリルの腕にはアーマンディがしっかりと支えられている。


「確かに乱暴だ……」


テシオがポツリと呟く。


「魔力が溢れている感じよね。羨ましい魔力量だわ」


メイリーンがうっとりと呟く。


「相変わらず力任せね」


ジェシカはフゥと息を吐く。今日のシェリルはいつもより力強く乱暴だ。その理由を知っていても、ジェシカは呆れるばかりだ。


「………………うぅ」


シェリルの飛び降りた勢いにアーマンディは目を回す。今日は特に勢いが強かった。


「スカートじゃないから思いっきり行きますね」とシェリルが言った時には、ジェシカと同じ聖女の衣装で今日の儀式を行えば良かったと思ったくらいだ。


「アーマンディ様?大丈夫ですか?」


「え……ええ」


大丈夫じゃないとは思うが、そんなことは言えない。アーマンディは目を回しながらもシェリルから離れようと努力する。目の先にはこちらを見ている三人がいる。あまりくっついている姿を見られるの恥ずかしい。


シェリルがアーマンディを地面に下ろすと、無理があったのかクラリとした。

倒れそうになるアーマンディをシェリルが支える。ジェシカが走って近づく。メイリーンとテシオも手を繋いだまま声をかける。


「姉様?大丈夫?」


「ジェシカ様、シェリル様、ねーさんは大丈夫かよ?」


「だ……大丈夫です」


「確かに大丈夫そうね。シェリルが激しく飛び降りたから魔力酔いしてしまったのね。困ったものだわ」


「魔力酔いであればすぐ治りますね。では治るまで抱えて行きますよ」


「そうね、責任を取りなさい」


慣れた様子で場を締めるジェシカに、アーマンディは抗議することすらできない。まさか弟と妹の前で抱えられて運ばれるなんて!しかもこれから決戦の前なのに!


真っ赤になるアーマンディを無視してシェリルはアーマンディを横抱きにする。


「それの方が良いんじゃね?ねーさんは魔力で筋力増強できないんだから、遅いだろうし。これで俺たちは走れるだろ?」


「そうね……なんだか緊張感には欠けるけれど……」


くすくすと笑う弟妹に、アーマンディはぐぐっと口を強く結ぶ。


「横抱きですと走り難いですね。担いでも良いですか?」


「ええ⁉︎」


相変わらず恥じらいがないとアーマンディは口を大にして抗議の声を上げる。


「やめなさい!アーマンディ様がお可哀想よ」


ジェシカにピシャリと言われ、アーマンディはほっと息を吐く。

ジェシカがいて良かった……いなければ担がれていたかも知れない。そう思って安堵しているとテシオと目が合った。


『ゴチソウサマ』


声を出さずにテシオはアーマンディを揶揄う。いつものことだが、メイリーンの前では初めてだ。そして横にいるメイリーンはクスクスと笑っている。


これから行うのはふたりの命がかかったものだ。緊張でガチガチなのより、この位の方が良いかも知れない。恥ずかしい思いをしているのは自分だけだ、と思うとアーマンディは我慢しようとも思う。


「では行きましょう」


ジェシカがふわりと前を向くと、メイリーンとテシオが続く。するとジェシカが一気に駆け出した。あっという間に遠ざかる姿にアーマンディが驚いていると、テシオとメイリーンが顔を見合わせ、ニコリと笑い合う。


「いくぜ、着いて来れるか?メイリーン」


「テシオこそ、大丈夫?私は速いわよ?」


掛け声と共にふたりは手を繋いだまま走り出す。ふたりも速い。あっという間に姿が見えなくなる。


「あ……確かに僕には無理ですね。追いつかないです」


「負けられませんね……と言いたい所ですが、また魔力酔いしても仕方ありません。ゆっくり行きましょう」


「はい、よろしくお願いします」


シェリルは足に魔力を込める。そしてアーマンディは知る。シェリルのゆっくりはゆっくりではないことを。





◇◇◇






「大丈夫かよ……ねーさん」


「だ……大丈夫……うっ」


クラクラする頭を抱えながら、壁に手をつけるとその先が真っ黒になっていることに気がついた。


「……これは?」


「ああ、双子の聖女が娘を焼き殺したところだよ。真っ黒になってんの」


「え?」


思わず離れてしまった手を罪悪感を持って見つめると、気持ちはわかると言う様な表情をするメイリーンを目が合った。

もしかしてあったかも知れない未来だと思うとアーマンディの心はズキリと痛んだ。


「ここで妻と娘を殺したのは夫である公爵だったらしいわ。この避難路は聖属性の力は強いけれど、各公爵家の近くであれば苦痛を我慢すれば降りることは可能だわ。その証拠に両親は何度かここに降りてきたわ。顔を真っ青にして……ね」


「そうなのね……」


アーマンディにはこれしか言えない。でもメイリーンと両親が、この現場と同じ思いをさせてはいけないと思い始めた。


「今後のウンディーネ公爵家の対策については協議していくつもりよ。過去は過去。これからのために尽力しましょう」


ジェシカは大人だ。強い口調で話すことで明るい未来を示唆する。皆の視線を集め、ジェシカは上を見上げる。


ウンディーネ公爵家に続く避難路の先は明るく光っている。避難路が開いている証だ。


「私が先に行くわ。シェリルはアーマンディ様をよろしくね。上でカイゼルとカエンと合流して聖域を作るわ。できたら声をかけるからふたりで来てね」


声と同時にジェシカはふわりと浮く。「風魔法の応用だ。すげーっ」と声を出すテシオに手を振り一気に飛び上がる。


「私は浮けませんので、一気に飛んでからはしごを使って駆け上がります。だから今度こそ担ぎますね」


「ええっ⁉︎」


シェリルにグイッと担がれて、頭のてっぺんが地面に向いたアーマンディはなす術がない。こんな格好で親子の二度目の再会を行うかと思うと、さっきまで悲しい気持ちだったのがなんだか情けなくなってくる。


「ううううぅ……」

情けない声を上げると、シェリルに太ももを掴まれた。キャッっと高い声を上げた同時に一気にシェリルが飛び上がる。


「キャ――――――――っ‼︎」


そのまま伸びる悲鳴を聞きながら、テシオとメイリーンは下から覗き込む。



「緊張感ないったら」


「本当ね。でもなんだか、姉様を見ているとなんとかなる気がしてきたわ。純粋な人……大好きよ」


「分かる。俺たちより年上なんだけど、放っておけないんだよな。なんか弟か妹みたいなんだよ」


「ふふ、そうね、分かるわ。色々と教えてあげなきゃ」


「だな」


ふたりは笑う。明日を信じて。

毎日12時に投稿します。

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