第93話 テシオの策略(4)
「じゃあ、そろそろ本題に入るよ〜ん」
テシオはスタッと立ち上がる。家族の視線を集めながら、その間に立つとにんまりと笑う。その表情はメイリーンとそっくりだ。
「一番初めに言ったけれど、今回はヴルカン公爵家に協力を要請した。そしたら解決策が見えた。今まで一族は自分達だけで問題を解決しようとしていたからダメだったって、ジェシカ様に言われた」
「ヴルカン一族に協力を要請をしたと言うことは、契約書の力を使うと言うことなのかな?」
「さすが父上、ポンコツだけど頭の回転は早いね!」
「ポンコツで悪かったね。ヴルカン一族の力でテシオの聖属性の力をメイリーンに譲渡するとか、そう言う感じかな?君達は双子だから体内の魔法コードが一緒だ」
「話が早くて助かるよ。それでジェシカ様が言うには、魔力の器は人それぞれで俺とメイリーンは双子だけど、その大きさは違うらしい。俺は大きくて、まだまだ入る。そしてメイリーンは器より大きい魔力を持っている。だから俺は魔法を使うのが下手くそで、メイリーンは自身の持つ聖属性の力を使えずにいる」
「メイリーンが……聖属性を持っている?」
「そうらしいよ。ジェシカ様が仰っていた。あの人すげーよ。さすがスピカ神にお知恵を頂いただけあるよ。魔塔でも太刀打ちできない知識量だよ」
一呼吸おき、テシオはもう一度皆に向き合う。
「で、ジェシカ様が仰るには、メイリーンの持っている聖属性だけでは体内に巣食う瘴気は祓えないから、俺が持つ聖属性をメイリーンに移して、その他の魔法の属性を俺に移すことで体内の瘴気を祓えるだけの魔力を持つことができるだろうって。過去のウンディーネ公爵家の直系の聖女を見ても、自分の体内の瘴気を祓うことはできる。だけど他者が瘴気を祓おうとすると、宿主を守るように瘴気が襲いかかることになる。つまり一人前の聖女になれるだけの聖属性を持てば問題ないということだ」
「ヴルカン公爵家のどなたがあの避難路に入って術を使ってくださると?あの空間に聖属性が持たないものは入るのは辛い。私達もメイリーンのためだから降りれた。魔法を使うのも厳しい。そもそも私は……死を覚悟していたから、やろうと思えたんだ」
「さすが父上、問題はそこ!まず第一の質問の答えから行くよ!ヴルカン一族でも契約書の力を使えるのは何人かいるけれど、今回ほどの契約だと現公爵イリオス様か、前公爵マーロン様だけしかできない。そしてイリオス様にお願いするのは無理だよな?だって秘密裏に行わなきゃ、ウンディーネ公爵家の秘密が世間に晒されるはめになるからな。だから今回は前公爵マーロン様が手伝ってくださいま〜す。ご機嫌伺いって形でここに呼びたいから、お祖父様を、ここに呼んでもらえる?あくまで自然に行きたいからさ」
「分かった……それは可能だ。その話をすれば喜んで来て下さるだろう。つまりウンディーネ公爵邸で術を施行するわけだね」
「そうだよ。メイリーンは今の所、避難路にいることで瘴気の増幅を防げている。だから地上でも擬似避難路を作る。そうすればマーロン様が術を使うことが可能になるからね。やり方としては、俺とメイリーンが避難路から出てきたところで、兄上が水属性の結界で俺達を包んで欲しい。できれば魔力を弾かないものをね。次にねーさんとジェシカ様がその結界内を聖属性で満たす魔法を発動させる。擬似避難路ができたところで、屋外の広い場所に移動する。そこでマーロン様が術を発動させる。上手くいけば俺とメイリーンの力は交換できると言うわけだ」
「うまくいかなかったら?」
ヒヤリとした雰囲気でカエンが聞いた言葉に、両親は息を呑む。そのことこそ聞きたいと言うように。
「上手くいかなかったら、シェリル様が俺とメイリーンを焼いてくれる。一瞬で骨まで焼き尽くすって言ってたから痛くはないはずだよ。消火はよろしくね」
明るく笑うテシオを非難するようにカエンは立ち上がり、胸ぐらを掴んだ。
「ふざけるな!なぜ、お前とメイリーンが!」
「一緒に生まれてきたんだ。一緒に死にたい。メイリーンも納得してくれた。父上や母上には生きて欲しい。兄上には今後のウンディーネ公爵家の未来を託したい。ねーさんとジェシカ様と協力してこの呪いに打ち勝って欲しい。それが俺達の望み。だから一緒に死なないで。生きて未来を繋いでいくことの方が辛いけれど、大事だから」
掴まれてもテシオは真っ直ぐにカエンを見る。その瞳はいつものふざけた雰囲気で話すテシオではない。テシオの決意した瞳にカエンは言葉が出ない。テシオの姿がぼやけていく。涙で弟の姿が見えない。
「テシオ……すまない」
「まだ、分からないだろ?成功したら、メイリーンは聖女として聖女の館に入るから、ちゃんと俺達の誕生日に正式デビューさせてくれよな?」
「アーマンディと同じデザインのドレスを作りたいわ。間に合うかしら」
「あと、二週間だね。急がせよう」
親子で抱き合って泣いた。先の未来に望むべき明るい世界が広がるように。
◇◇◇
避難路にひとり佇みながら少女は歌を歌っている。優しい子守唄。誰に習ったかも分からない歌は、心を落ち着かせてくれる。
ほのかに明るい通路を南に向かって歩くと円状に広がる空間に出る。4方向に広がる通路の真ん中には上へと繋がる通路が見える。
足元を見るといつも泣きたくなる。それが何故か分からない。ただ何かが頭を掠める。その想いを言葉として具現化することが、いつもできない。
「ここに何があるのかしら?」
呟いても返事はない。それはいつものことだ。
ここが、聖女の館の下が、一番聖属性の力が溢れている。だからメイリーンは体内の瘴気が強くなると、ここに来る。
目の前にある縄梯子を掴むと、あまりにも高い位置にあるそれは、乱暴に切られていることが分かる。
これではネリーでなくとも誰も登る事ができないだろう。4大公爵の邸宅に繋がる縄梯子は地面スレスレまであるのに。
「ふふ、果たして誰の仕業かしら?」
もし無事に15歳を迎える事ができたら、ここの謎を解きたいと思っていた。解ければとメイリーンは願っていた。
この頭に浮かぶ子守唄と一緒に。
「姉様、いいえ、お兄様、私に希望をありがとう。生きられたら、この謎を解きたいわ」
一呼吸おいて、メイリーンは目を瞑り、そしてゆっくりと開ける。
「でもね、テシオと共に死ねるなら、それが一番嬉しいわ。あたくしの――――」
メイリーンの全身から瘴気が迸り、一瞬にして暗くなった空間には、不気味な笑いがこだました。
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