第91話 テシオの策略(2)
テシオは手のひらに現れた魔法陣から、光炎を発生させる。
「兄上が引きこもっている間に、弟は成長したぜ?なんと聖属性と火属性のミックス技を思いつきました〜。俺ってやっぱ天才!と言うわけで開けてくれなきゃ、これを扉に投げちゃうよ〜」
テシオは返事を待たずに、勢い良く炎の魔法を投げつける。ボールの様に投げらえた光炎は凍る扉にぶつかる、と同時に上がる蒸気、なり響く爆音、破壊される扉、更に廊下には風が吹き荒れる。
ゴオッと吹き荒れる風は凄まじく、飲み込まれるように階下へと落ちていく。窓ガラスはその勢いで激しく共鳴りするが、割れる様子はない。そしてその先にある樹木に止まる小鳥は、邸内の様子に気付く事なく、呑気に毛繕いをしている。
「おおー⁉︎やべ〜、想像以上‼︎あ、でも建物の外には被害なし!さすが父上の作る結界だね」
手をかざし、周囲を確認しながらテシオはカエンの部屋に入る。爆風で煙る部屋には冷気が満ちている。
カエンの魔力で邸内が極寒の世界になっていても、周囲に気が付かれないのは、カイゼルが邸内に張り付く様に結界を張っているからだ。テシオは無茶ではあるが無謀ではない。分かっていて兄の部屋に攻撃したのだ。
「兄上〜?生きてる?」
「――テシオ……」
テシオは返事の代わりに息を吐く。息は真っ白だ。そしてソファに座る兄の顔も。
「もう1週間もハンストしてるって聞いたぜ?まったく美男子が台無しだ。すげーやつれちゃってる。うわ〜、無精髭やば!ってかその服、いつの服?汚ね〜、近付かないでくれる?臭いから。こんな情け無い姿してるなんて……兄上のファンの女性にチクっちゃおうかな?」
「お前は……妹の命があと2週間だって言うのに、何を呑気に!」
怒りを露わにし、飛びかからんばかりに怒っても、目の下に隈を作り、やつれているカエンの姿は哀れだ。だがそんなことはお構いなしにテシオを指を指して笑う。
「ははは、こうして見るとねーさんと兄上はそっくりだ。ウケる」
「ねーさん……アーマンディの事か。似てるに決まってるだろ。兄妹だ……。俺はアーマンディもメイリーンも助けられず……無能な兄だ……」
頭を抱えるカエンの前に、テシオは音を立てて座る。ソファまで凍っていてツルッと滑っただけでなく、ズボンまで濡れた。
「マジか。お漏らしした人みたいになっちゃうじゃねーか、兄上のせいだかんな。みんなに言ってくれよ?」
「………………」
カエンは無言を貫く。テシオがふざけた事を言うのはいつもの事だ。賢い弟は軽口を叩く事で、相手の出方を伺う。
「冷たいし、寒いし、魔塔から防寒着でも持ってくれば良かった。いや、こんな時期に実家がこんなになるって、普通は想像できないよな。じゃあこれも兄上のせいだ。あー、扉壊しちゃったから、廊下に冷気が漏れちゃってるよ。これも兄上のせいだかんね。ちゃんとみんなに、ごめんなさいしろよな?しかし寒いな。なぁ、ダウン貸してよ。いや……待てよ。兄上のはでかいから、お詫びの証でプレゼントしてくれよ。ああ、そう言えば俺の誕プレだって期待してんぜ?今年からひとり分だから楽だろ?」
「――ッ!お前‼︎」
怒りからカエンは顔を上げると、その先にはニマニマ笑うテシオがいる。
このまま怒りに任せて発言するとアーマンディの時の二の舞になる、カエンはグッと拳を握りしめる。
「テシオはもう気持ちを切り替えたのか……。俺は――まだ無理だ……」
「やっとこっち向いたね?俺はもう切り替えてるよ。俺はねーさんと共にメイリーンを助ける。今日は兄上に手伝ってもらおうと思って来たんだ」
「――――‼︎」
希望の言葉にカエンが立ち上がったと同時に、邸内に溢れていた冷気が消えた。テシオが放った魔法の影響まで一気に消え去る。おまけにテシオの濡れたズボンまで一気に乾く。
「何これ……兄上ってすげー」
「そんな事はどうでも良い!どう言う事だ、お前はアーマンディと連絡を取っているのか⁉︎助けるとは……アーマンディは協力してくれる……のか?そんな、俺達家族を嫌っているとばかり……」
「あー、嫌ってるって言うか……まぁ、ねーさんは兄上に嫉妬?みたいな?」
「嫉妬?テシオ……お前はなぜ『ねーさん』と言ってるんだ?意味があるのか?」
「おお、さすが兄上……着眼点がやべーよ。正気に戻ったところで、父上と母上と話さない?俺は大事な話があるんだ」
テシオが真面目な表情をする。今までの全てが、自分に前を向かせるための行動なんだとカエンは気がつく。同時に兄としての自分の不甲斐なさにも。
「風呂に入る時間はあるのか?」
「髭も剃ってくれよな?ねーさんからお菓子の差し入れもあるんだぜ?」
カエンは目を白黒させる。いつもながらテシオの行動力はすごいと思いながら。
◇◇◇
カエンが応接間の扉を開けると、そこにはやつれた母と、全身から殺気を放つ父がいた。ふたりが座るソファはメイリーンのお気に入りだ。幼い頃は、テシオと手を繋いだまま一緒に寝ていた。随分と仲が良いと思っていた時代が懐かしい。
両親の前に座るテシオは、ソファの上に三角座りをし、袋からゴソゴソとお菓子を出して食べている。公爵令息らしからぬその姿を見ても両親の反応がない事から、カエンより心の闇が深い事が分かる。きっとテシオは両親と話をしていないのだろう。話すことができずにいるのだろう。
自分のすべきことが分かり、カエンは半眼しながらテシオの横にドガっと音を立てて座る。
「お前……それを俺にも寄越せ。アーマンディの手作りなんだろ?」
両親の肩がぴくりと動く。
「えー、どうしようかな?クッキー1枚、1金貨でどうよ?」
「ふざけるな。1金貨あれば、豪華なホテルに泊まる事ができるだろ?まぁ、聖女の作るクッキーだ。買う奴は、買うかもな」
「ねーさんのクッキーはすげーんだぜ?俺が調べたところによると、魔力と体力回復、浄化能力もあり、さらに美肌効果もある!ねーさんが作るご飯のお陰でメイリーンはお肌ツヤツヤ、美少女度が更に上がっちゃった。このままだと求婚者が押し寄せちゃうよ。兄上一緒に追い払ってくれる?」
「…………は?」
テシオからクッキーを受け取ったカエンは、そんな話しまで想像していないと目を白黒させる。
「……テシオ……どう言うこと?」
アントノーマは震える声で、だが希望に満ちた瞳でテシオを見る。
「………………」
カイゼルは反応がない。完全に心を閉ざしているのか、周りの反応を見ているのか分からない。
「内緒にしていて、ごめんね?俺とメイリーンは、ねーさんと連絡取って、仲良く兄弟やってます!しかもねーさんとヴルカン一族で、メイリーンを助けようと奮闘してます!ウンディーネ公爵家の機密情報を漏らしちゃったけど、かわいいメイリーンを助ける為だから許してね?パパ?」
テシオがウィンクと共にクッキーをカイゼルに差し出すと、カイゼルは一口でガブリと食べた。
「詳しく話を聞かせてもらおうかな?かわいくて、かわいくて、目に入れても痛くない息子である……テシオ君?」
カイゼルの身体中に満ちていた殺気は希望へと変わった。
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