表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ウンディーネ公爵邸編
87/204

第87話 1か月目の付き合った記念日(1)

 食事の際は、5階にあるダイニングルームに皆が集まっていた。だが今晩は記念日だからと言われたので、シェリルはアーマンディの部屋に来た。

 アーマンディの部屋にはいつの間に運んできたのか、4人用のダイニングテーブルがあった。

 真紅のテーブルクロスの裾には、ヴルカン公爵家の象徴花である薔薇が刺繍されている。まだまだ技術は拙いが、一生懸命に縫い上げられていることから、アーマンディの作品だろう。

 黒いテーブルランナーの上にはキャンドルが飾られ、ああ、これが乙女脳の持ち主が好むデザインなんだとシェリルは学ぶ。

 ミルバから、花束を持参しては?、と助言され、断ったことをシェリルは後悔する。

 確かに、友人の家に招かれた際には、プレゼントとは別に花束を用意していた。

 今回は、大袈裟だ、必要ないと言って、拒否したが、どうやらそういう問題ではなかったようだ。

 女性の友人宅に招かれた時のように、気を使わなければいけなかったらしい。確かに騎士教育の一環であったが、まさかここでも(しかも男性相手に‼︎)使うことになるとは思わなかった。

 だが、毎月こんなことをしていたら、キリがないではないか!と現実逃避していても仕方ないと、改めてシェリルはテーブルの上を見る。

 なぜならテーブルいっぱいに、それこそ所狭しと並べられた料理は消えないからだ。

 そう、アーマンディは今日のために、凄まじい種類の食べ物を用意している。

 前菜だけでも8種類。肉料理は種類別に4種類、魚料理だって、煮込んだり焼いたり白身だったり赤身だったりと並んでいる。

 きっと誰かがシェリルの好物だと言ったのだろう。種類も内容もバラバラだ。

 幸いケーキは一種類だが、それもシェリルには意味が分からない。シェリルはアップルパイが好きだと言った記憶はない。嫌いではないけれど。


「アーマンディ様……これは?」

「シェリル様が好きなものを作ってみました。どうですか?」

 頬を桜色に染めながら、褒めて欲しそうな表情でアーマンディはシェリルを見ている。その姿はとても可愛らしい。

 だが、アーマンディの様子にシェリルは気遣えない。

「そう……ですね」

 言葉を止めてしまったのには訳がある。好き嫌いのないシェリルはどんな物でも食べる。

 どうするか……とシェリルは心の中で呟く。

 たくさん並べられた『好きな物』とされる料理の数々を、肯定する要素もなければ、否定する要素もない。だがここでそれを言わなければ、きっとここに出たものがシェリルの『好きな食べ物』になるのだろう。

 いや、そもそも作ってる途中で違和感はなかったのだろうか。こんなにたくさん食べられるわけがないのに。アーマンディは賢いはずなのに、どうして気が付かなかったのだろうか。

 しかしながら目の前で頬を染めて待つ愛おしい人に、それらの事を告げてしまうと、このお祝い気分が盛り下がってしまうのではないだろうか。

だが、ミルバに正直に言うことも大事だと言われた――シェリルは決意する。


「アーマンディ様、これらが私の好物だと、誰に聞きましたか?」

「あ……もしかして……違いましたか……僕はまた、間違えて……」

「ああ、いや、その、違わないですが……違うとも言えなくて……」

「ノワールお祖母様と、ヴァネッサお祖母様、そしてジェシカ様に聞きました。シェリル様のお好きな食べ物を。皆さん言う事がバラバラなので……全て作ってみたんです」


 ああ、だからこの量なのだと、シェリルは目を細める。そもそもふたりで食べる量ではない。むしろアーマンディが良くひとりで作れたものだと思う。

 これではダメだ、再び現実逃避を始めても仕方がないと、改めてシェリルはアーマンディの瞳を見る。

 分かり易いくらいに瞳が潤んでいる。どうしてこうも分かりやすいのか。そんな表情をされると、どうして良いか分からないではないか!

 いや、そもそも私が好きなものは『アーマンディ様が作る料理』だ。だったらここにある料理を好物にしてしまえば良いだろう。どうせ好き嫌いはないのだから!

 覚悟が決まってしまえば簡単だ。シェリルは余裕な雰囲気で笑みを漏らす。こんなところで、公爵教育が役に立つとは思わなかった。

「いいえ、好きなものばかりです」

 

 だが、そんなに簡単に騙されるほどアーマンディは馬鹿ではない。潤んだ瞳にキッと力を入れる。

「シェリル様……正直に言ってください」

 これはまずいとシェリルは記憶を振り返る。自分が好きと言った覚えのない物があるはずだと、料理に目を通す。

「あ……いや、アップルパイを好きと言った覚えはないと……思いまして……」

「あ、すみません。アップルパイだけはネリーのリクエストでして」

 助かった……安堵しながら、シェリルは部屋を見回す。

「そういえばネリーは?いつも一緒に夕飯を食べているのに」

「今日はマーシーの部屋に。『ふたりっきりの方が良いですよね?』とマーシーが言って、ネリーを連れていってしまいました。今晩もマーシーと一緒に寝るんだそうです」

「……そうですか」

 明日会ったらマーシーを殴ろうとシェリルは決心する。余計なほうに気を回しすぎだ!


「見ての通り作りすぎてしまったので、ジェシカ様やお祖母様もお呼びしたのですが、断られてしまいました。どうしようかと悩んでいます。食べられますか?」

「いや……正直厳しいですね。そもそもジェシカ様や祖母がいても難しいかと」

 表情を変えないように注意しながら、シェリルはアーマンディを見る。首を傾げるアーマンディは、皆が断わる理由を分かっていないようだ。恋人同士の祝いに野暮な真似をするものなど、ここにいる訳がないのに。


 アーマンディはシェリルを清らかだというが、よっぽど自分の方が汚れているのではないかとシェリルは思う。せっかくの2人きり。しかも今日はアーマンディの部屋。テーブルの先には、ベッドが見える。アーマンディと自分の部屋は、一部屋しかないのだから当然だといえば当然だが、それでも(よこしま)な気持ちが湧いてくる。

 これでも公爵令嬢なのだが……とは思うが、恋人同士なのだからアリだろうとも思ってしまう。一昔前と違って、結婚してからじゃないと……なんて風習は今時ない。そもそも貴族であってもスピカ公国は恋愛結婚が多い。そんな開けた時代だ。

 だが、女性が押し倒すのは聞かない。それでは痴女の様ではないか。だが、キスだってアーマンディはいつだって受け身だ。男性でありながら、キスを強請(ねだ)るのはどんな心境なのだろう。そもそもファーストキスが悪った。あれ以来いつもこちらからになってしまった。

 

 ぐるぐる思考を回すシェリルを、アーマンディは覗き込む様に見ている。

 シェリルが眉間に(しわ)を寄せて、腕まで組んでいるのだから、悩んでいるのは分かる。だが悩む理由が分からない。


 恋人同士であっても、夫婦であっても、親子であっても、話さなければ分からない。アーマンディは人の感情を敏感に感じ取れるが、その人の本当の心は(うかが)い知れぬものだ。


「……シェリル様、何を悩んでいるか分かりませんが、食事にしませんか?冷めてしまいます」

「ああ、そうですね。頂きましょう」


 向かい合って椅子に掛けるとアーマンディはニコリと笑う。


 本当に男なのだろうか……疑いながらシェリルが見ていると、今度は頬が赤くなる。本当に男なんだろうか……シェリルの悩みが更に深くなる。

毎日12時に投稿します。

面白かったらブックマーク、下の評価よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ