第82話 作戦会議(1)
アーマンディ専用の台所は5階に作られた。
聖女の館は機密を守るため少人数制で、その規模は貴族の邸宅に比べればかなり小さい。
その為、アーマンディの部屋がある5階には6部屋しかない。
北側にある部屋はアーマンディ、その隣の部屋がシェリルの部屋。反対側の南の部屋、かつてアジタートのものだった部屋はジェシカ使っている。その隣をノワールが。つまりその間にある使っていない部屋を改造し、台所とダイニングルームとした。
火の魔法石さえあれば、火属性がないアーマンディでも火は起こせる。
アーマンディは台所でメイリーンのために食事を作っている。どうせなら全ての食事をアーマンディ作にした方が良いと提案したのはジェシカだ。体内に巣食う瘴気を浄化する事は基本的には難しい。だが食事は身体に直接作用することから、効率的に効果が出ると言うことだ。
とは言えどメイリーンの食事をアーマンディが作っていると、ウンディーネ公爵家が用意するメイリーンの食事を残すことになる。度々食事を残していれば、アーマンディの介入がウンディーネ公爵家に気付かれる恐れがある。メイリーンを確実に救う手立てがない状態では介入に気づかれる訳にはいかない。
更にメイリーンに食事を持っていく人員も必要だ。度々シェリルが持っていくわけにもいかない。
その2つを考えたときにシェリルは急遽テシオを呼び出すことにした。聖属性を持っているテシオは避難路へいける。妹を救うためなら実家にも秘密にできるはずだ。
メイリーンを通してテシオを呼び出すと、彼は二つ返事でやってくると言う。その為、テシオが聖女の館に到着してから食事は作ることになった。現在はテシオがメイリーンの元に食事を運び、メイリーンはアーマンディの作った食事を、テシオがウンディーネ公爵家の食事を食べている。ふたりで食べる食事は美味しいとメイリーンは言っているそうだ。
メイリーンはもう避難路から出ることはできない。その為ウンディーネ公爵家の食事は避難路を通してロープで降ろされていた。テシオがいなくなってから、メイリーンは避難路でひとりで食事をしていたという。その姿を想像すると、アーマンディの心がズキズキと痛む。
テシオはヴルカン公爵家の避難路から聖女の館に入れようとしたのだが、そこはジェシカから反対された。ジェシカはテシオをウンディーネ公爵家筋の見習い信女として聖女の館へと召喚した。『お陰で常に女装だよ……』と文句を言っているのはテシオだ。だが、女装した姿はメイリーンと見分けがつかないほど良く似ている。
「アーマンディねーさん、今日のご飯はなに?」
ノックもしないでキッチンの扉を開けたのはテシオだ。アーマンディはその所業には慣れたが、シェリルは無礼だと言って、テシオの頭を小突く。テシオはシェリルにかまって欲しくて、わざとやっているんじゃないだろうかと、最近のアーマンディは不満顔だ。
「ねーさん、怒んなよ?すぐ顔に出るのは良くないぜ〜。ねーさん顔がにーさん顔になっちまう」
そう言ってケタケタと笑うテシオはアーマンディの秘密を知っている。それはメイリーンもだ。ふたりは驚いたが、その理由は「これだけ美人なのに男だなんておかしい!」だった。男が聖属性を持つことに偏見がないのは、テシオが聖属性を持つからだろう。
「テシオこそ、僕達だけの時は『兄さん』って呼んでって言ったでしょう?」
アーマンディは膨れるが、知ったことかとテシオは笑う。
「いざって時には『姉さん』って言わなきゃいけないだろう?だからねーさんで良いじゃんか。そもそもそんなフリフリのエプロンつけてる美人を、にーさんって言い難いよ。ねーさんで良いだろう?俺的にはねーさんでも、にーさんでも良いんだよ。だって兄弟がこうやって話せて、メイリーンの為にご飯まで作って、助けようとしてくれてんだぜ?こんな幸せを想像したことなんてここ数年なかったよ。メイリーンだって笑顔が増えてきたし、瘴気も減ってきたし良い事ずくめだよ」
アーマンディは自分の姿をちらっと見る。確かにエプロンはフリルがたくさん付いたものだ。だがこれはヴァネッサがアーマンディ用に用意してくれて宝物だ。『いっぱい汚して頂戴』と言われたエプロンの裾にはヴァネッサがした刺繍が施されている。
「瘴気が減ってきたのか、それは朗報だな」
シェリルはアーマンディが料理をしている間は、キッチンにある椅子に座って様子を見ている。一度手伝ってもらったが、手間が増えるだけなのでやめてもらった。シェリルには料理の才能はないらしい。
「ああ、顔色も良くなってきた。あとは俺がもっと聖属性を強くしないと!」
テシオはアーマンディとシェリルと共にジェシカに聖属性の魔法を習っている。ウンディーネ公爵家に伝わっていた聖属性の魔法はやはり神官や信女が使う魔法だったため、生まれながらに聖属性を持つテシオには使い辛かったようだ。元々、魔法の研究が得意だったテシオはみるみる内に聖女の魔法を使いこなしている。その成長速度はジェシカも目を見張るほどだ。
「それも大事だけどテシオはちゃんと寝てね。顔色が良くないよ」
アーマンディがテシオに触れてそっと癒しの力を送ろうとすると、サササッとテシオは逃げる。
「テシオ!」
「だって、ねーさんはマジ美人なんだもん!俺を変な道に引きずりこまないでよ!」
「変な道ってなに?男同士なんだし兄弟だから良いじゃない?」
「ねーさんにやってもらうくらいなら、シェリルねーさんのが良いや」
それが嫌だから回復しようとしているのに……とは言えずにいるアーマンディをテシオは手招きする。耳を貸せと言うのだ。
「嫉妬してるってバレバレだぜ?そんなんじゃ聖女の館の人間にはバレちゃうぜ?まぁ、あの唐変木は気付いちゃいねーけど……にーさんも苦労するね〜」
耳打ちされた言葉に、アーマンディはついつい笑ってしまう。テシオは今までアーマンディが会ってきた誰とも違ってこうやってすぐ揶揄う。だけどアーマンディにはそれが嬉しくて仕方ない。
テシオに唐変木と言われたシェリルはアーマンディの嫉妬など気付くことなく、今日もアーマンディの作った料理を食べている。
いつだって一番に食べてもらっているのに、その意味をシェリルは気がつかない。おそらく当人は味見役程度にしか思っていないのだろう。
アーマンディとしては誰よりも一番大事に思っていると言う意味を込めて、作った料理を食べてもらっているのだが、それをテシオに言ったら、「愛が重すぎる、ちょっと、いやかなりヒくわ〜」と言われた。だからこのことは兄弟だけの秘密にしている。
「今日の夕飯は鶏の香草焼きにしてみたよ。ハーブは体に良いんだって」
「ねーさんの料理の腕がどんどん上がってきて、やべーよ。聖女で料理も刺繍も上手ってヤバくない?顔も綺麗だしさ。なんかすげーよな」
テシオは後ろで味見をしているシェリルを見る。
「そういえば話は変わるけど、ルーベンスが騎士の試験を受かったらしいね?」
「良く知ってるな。元々心配はしていなかったんだが、それでもやはり嬉しいもんだ」
「なんか騎士試験に合格したから中央都市に来るんだって?」
「なぜ、お前がそれを知っているんだ」
シェリルがジロリと睨んでもテシオは気にせずヘラヘラとしている。
「今年の騎士試験はウンディーネ公爵領で行われただろう?だから遊びに行ったんだよ。その時に念話を交換したんだ。あいつは良い反応するから可愛くて仕方ないんだよね」
シェリルはルーベンスがテシオに情報を漏らしすぎだと深くため息をつく。だが、騎士試験に緊張してルーベンスはガチガチだっただろう想像していたので、テシオのお陰で緊張が解けたかもしれないと感謝することにした。
「ルーベンスの騎士試験には誰も一緒に行けなかったから助かる」
「感謝してよね?イリオス兄さんの時には祖父が、シェリル姉さんの時はイリオス兄さんとミルバが一緒だったのに、俺だけひとりで受けるって泣きべそかいてたぜ?」
「そうだな……本来だったら祖母か祖父が行く予定だったんだが、祖母はここにいるし、祖父は祖母の穴を埋めるために魔物退治に行ったと聞くし、ひとりで大丈夫だと言っていたが、やはり心細かったか。悪いことをした」
「まぁ良いんじゃね?それで、なんで中央都市に来るの?ヴルカン公爵家も今回は公国王の選挙に出るんじゃないかって周囲がざわめいているぜ?」
「まさか……そんな話は聞いていない。だが、そうだな。ルーベンスの中央都市行きは兄が関わっているらしい。今度聞いてみるか」
誤魔化すようにニヤりとシェリルが笑ったところで、扉がバンっと音を立てて開いた。どうもノックをしない人間がここにはもうひとりいるようだ。
「……お祖母様、礼節はどこに消えたんですか?」
「相変わらず、シェリルはかたいな。そんな怒り顔ではアーマンディに愛想を尽かされるぞ?」
シェリルが睨んでも、ノワールは気にする事なくキッチンを見回す。
「揃っているな。これは重畳!ジェシカ様がお呼びだ、メイリーンを助けるための魔法陣ができたらしぞ」
アーマンディとテシオはハイタッチして喜びを分ち合った。
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