表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ウンディーネ公爵邸編
80/204

第80話 メイリーン(1)

「ま――待ってください!シ……シェリル!待って!!」


「何を焦っているのですか?抱き抱えることなど何度もしているでしょう?そもそもあなたは風の魔法を使えない。他に手がないのだから、おとなしく抱っこさせてください」


シェリルは深いため息を漏らす。そしてアーマンディは涙目になって頭を垂れる。

こうしてクローゼットの中での攻防はシェリルが圧勝した。


「腕を私の首に回して下さい。私があなたの腰を支えますので極力動かないでください。降りるための通路は広くない。なるたけぎゅっと抱きついてください」


どうしてこんなに恥じらいがないのだろう……真っ赤になりながらアーマンディは言われた通りにする。シェリルは人を触ることも、触られることも躊躇(ためら)いがない。息がかかるほど近くにいても、いつだって普通の顔をしている。自分は心臓が飛び出るのではないかと思うくらいにドキドキしているのに。


クローゼットから見える避難路は仄かに明るいが先がずっと見えない。こんなところに目が見えないネリーを送ってしまたのかと、アーマンディは今更ながら反省する。


だが、そんな気持ちは一瞬で消えた。シェリルが「行きますよ」と言ったかと思ったら、あっさりと飛び降りたのだ。ひゅうっと落ちる感覚にアーマンディは恐怖しかなく、シェリルにぎゅっと抱きつくことしかできない。耳に聞こえる風の音すら恐怖だ。歯を食いしばりながら、悲鳴をなんとか堪えていたら、地面に足がつく音がした。


「アーマンディ様?もう大丈夫ですよ?」

 

思ったよりも一瞬だった……そう思いながらアーマンディが顔をあげると、目の前には円状の空間が広がり、4方向に通路がある。


「ありがとう……ございました」


「しかし相変わらず軽いですね。もう少し体重を増やすようにマーシーに言いましょう」


「――――っつ!」


まさか愛しい恋人に軽いと言われようとは――!

真っ赤になりながら、アーマンディはシェリルから離れる。タイル造りの床にアーマンディの靴の足音がカツンと響く。


「仄かに明るいんですね」


周囲をぐるっと見て、アーマンディは床を見る。するとなぜか郷愁の念に襲われる。来たこともないのに、不思議な気分だと思いながら上を見上げると、梯子が胸の位置にあることに気付く。


目の見えないネリーはどんな思いでここまで降りたのだろうと、今更ながら心が痛くなる。そしてこの時の話をネリーとしていないとも気がついた。今晩はその時の話をじっくり聞いて、一緒に泣こうとアーマンディは心に決めた。


「明るいのは壁に魔鉱石が含まれているからですね。しかし相変わらず聖属性の気配が濃いですね」


「濃い……ですか?聖属性が?」


シェリルの言うことがアーマンディには分からない。自分には石造り特有の寒々しい空気しか分からない。強いて言えば自分がいた地下の部屋と違って、ここは優しい気配がすると思えるだけだ。


「ええ、この避難路には聖属性の力が満ちています。私の兄も入ることができませんでした。もちろん祖母も無理だったそうです。ネリーがここに来れたのは、アーマンディ様が生成する水を毎日飲んでいたから聖属性に耐性があるのだろうと、ジェシカ様が仰っていました」


「耐性……ですか?」


「ええ、強すぎる光は目を焼きます。同じ様に強すぎる聖属性も毒になります」


「そうなんですね……僕には聖属性の濃さも分かりません」


「アーマンディ姉様は聖属性の力が強いから、お分かりにならないと思います」


小鳥のように澄んだ高い声が聞こえ、シェリルはアーマンディを守るように前に立つ。


「お前……いつの間に⁉︎」


北側の通路に夜明けの空の様な色のワンピースに身を包んだ少女が立っている。


「ここは聖属性に満ちていますし、地下ですから探知の魔法は効き辛いのですわ」


ニコリと笑う女の子は腰までのびた柔らかい銀の髪をしている。瞳は緑がかった青緑色でぱっちりとし、銀色の長いまつ毛と合わせて神秘的に映る。華奢な体は庇護欲ではなく、同情を誘う。


痩せすぎだ……、シェリルは思わず目を細める。長い袖のせいで指先しか見えていない。そしてスカートの裾は地面を這うように長い。瘴気の気配がないのは腰につけた浄化石のお陰だろうか。アーマンディがこの間浄化したばかりなのに、もう濁りが見える。


「メイリーンか……。ネリーを助けてくれて感謝する。シェリル・ヴルカンだ」


「あ……アーマンディ……です」


シェリル越しにアーマンディはメイリーンを見る。本来ならアーマンディが先に挨拶をしなければいけない。後になってしまったと反省するが、気にしないようにメイリーンはふわりと笑う。その姿はうっとりするほど可愛らしい。


「お会いできて光栄です。アーマンディお姉様。そして姉様を守ってくださって感謝しています、シェリル様。どうぞ不調法はお許しください。死にゆく身なのですから」


「姉様と……呼んでくださるの?」


「はい、お嫌じゃなければそうさせて頂けると嬉しいです」


「死にゆく身……だと言ったな?お前はやはり15歳で死ぬつもりか?」


シェリルの鋭い視線を受けてもメイリーンは変わらず穏やかに微笑む。


「ええ、ウンディーネ公爵家直系の女児で聖属性を持たない者は15歳を超えると瘴気が増大し、巨大な魔物になってしまうと伝えられています。わたくしはここまで生きられたので十分です。後は人の迷惑にならないように死ぬだけですわ」


「そんな――そんなことって!」


アーマンディはメイリーンに駆け寄ろうとするが、そこはシェリルに止められた。


「そんな話は聞いたことがない……仮にそうであったとして、そんな風に簡単に話してしまって良いのか?家門の秘密だろう?」


「ええ、お父様に知られてしまったら、きっと怒られてしまうわ。でも誰かに知って欲しかったの。それが姉様ならわたくしはとても嬉しいわ」


「昨日、アーマンディ様がお前の両親に助ける努力をすると仰った。それをお前は両親から聞いていないのか?」


「両親からは、『心配するな』と。兄からは『なんとかする』と手紙をもらいました。でもテシオからは念話で『ねーさんを怒らせたらしい』って聞きました。わたくしは他の誰でもないテシオの言葉を信じます。姉様に不調法を働いた両親と兄を許して下さい。わたくしのために必死なんです」


「つまり、お前は助けてもらう気はないと言うことだな?」


ため息混じりにシェリルが咎めると、メイリーンは申し訳なさそうに儚く笑う。


「無理だと思っているんです。方法があれば過去の聖女の女児は亡くなっていないはずですもの。4大公爵家の内、3公爵の誰もが忘れた避難路を覚えているのがウンディーネ公爵家だけだったのは、ここを使う必要があったからですわ。ここにはわたくし以外のウンディーネ公爵家の女児が使った名残りがあるんです。ここでしか生きられなかった女の子は、自分の叔母をここで殺し、母からここで殺されたそうです。過去の日記に書いていましたわ」


「もしやお前の言う女児とは、双子の聖女の話か?」


「ええ、そうです。この聖なる空間で叔母は姪の瘴気を根絶しようと浄化を試みました。ですが、逆に襲われて亡くなったそうです。流石にここまで詳しい情報は聖女の館にはないでしょう?」


「ああ、そうだな。しかしなぜお前がそれを?」


「ウンディーネ公爵家の事ですもの。歴史書を紐解けば我が家にあります。テシオが必死に古語を読み解き調べてくれました」


「それで、女児を殺したのは双子の聖女の母というわけか」


「ええ、そうです。母が浄化し、夫である小公爵が燃やすことで娘は人のまま死ねました」


シェリルは眉を(ひそ)める。これ以上の言葉は言いたくないと言うように。だが、それを分かっていてメイリーンは柔らかく笑う。だからこそ、ここに来たのだと言う様に。


「ですから、お願いです。今ここで姉様とシェリル様のお力でわたくしを殺してください。これが唯一残っているわたくしを救う方法ですわ」


哀しみを深く湛えた瞳に、笑みを残しながらメイリーンが言った事に、アーマンディは思わず息を呑んだ。

毎日12時頃に投稿します。

面白かったらブックマーク、下の評価よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ