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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ウンディーネ公爵邸編
72/204

第72話 ウンディーネ公爵別邸(2)

 アーマンディがシェリルと共に聖女の館の東門から出ると、真珠のように淡く輝きを放つ、丸みを帯びた馬車があった。馬車にはヴルカン公爵家の紋章が光る。

「これは……」

「我が家が用意致しました。アーマンディ様専用の御料車(ごりょうしゃ)となります」

豪奢な作りの扉を御者が恭しく開ける。踏み台も見事な意匠だ。

「4頭引きの馬車なんて……豪華ですね」

 シェリルのエスコートで馬車へと入り、アーマンディがふっくらとした椅子に座ると、体が沈みこむようだ。そういえば馬車に乗るのは初めてだ。

「そうですか?あなたの馬車ですから当然のことでしょう。今後、外国訪問用に6頭引きを作らせていますし、御料船も急ピッチで作っています。本来だったら、あなたが聖女に就任する前に用意しておくべき物を今、作っていますから、どうしても後手に回っています」

「そうなんですね……」


 向かい合って座ったシェリルは、慣れたようにゆったりと椅子に座る。すると御者がゆっくりと扉を閉めた。

 馬車は馬の(いなな)きと同時に動き出す。そして大聖堂から通りに出ると、止まってた黒い馬車が追随する。ミルバ達の乗る馬車だ。

 次に白馬に乗った騎士達が、2台の馬車をぐるりと取り囲み、ミネラウパの都市へ共に進んでいく。騎士達は一様に光を跳ね返すような、眩しい白い騎士服を着ている。


「周囲の騎士達は、聖騎士団の方々ですか?」

「右側が聖騎士団、左側が我が公爵家の騎士達です。今回は聖女の護衛なので同じ白色の衣装を用意しました」

「用意?騎士達の衣装もヴルカン公爵家が、用意するのですか?」

「今更何を言っているのですか?聖女の館にかかる維持費から、雇用費、あなたに関する費用、全て我が家が捻出しています。聖女の後見人を公爵家が務めるのは掛かる費用が莫大だからです」

「……そうなんですね、僕は何ひとつ返すことができず、申し訳ありません……」

「聖女の後見人というのは、見返りも大きいのですよ。大聖教と公国から補助金も入りますし、何よりも政治的に強くなります。特に今年は公国王が選出される年ですからね。グノーム公爵家からは、アーマンディ様への支援金の打診が入っています」

 アーマンディはシェリルの言葉の意味が分からず、目を瞬く。

 公国王は5年ごとに変わる。それだけは知っている。だけどそれと自分に何の関わりがあるのかは判らない。

 するとシェリルは申し訳なさそうに微笑んだ。

「ああ、あなたはアジタートに教わっていないから、知らないのでしたね。公国王は各公爵家より選出されますが、その権利は階位第1である聖女から第4位までの間に振り分けられたポイントを、一番多く得たものが公国王となれます。あなたは序列第1位ですから当然ポイントを多く持ちます。グノーム公爵家は早くからあなたとの接触を謀るために、公爵位の引き継ぎ儀式をしていなかったのですよ。デルフィがやっと小公爵になれると喜んでいました。あなたにもぜひ、デルフィに会って頂きたいです」

「シェリル様のご友人ですよね?僕もお会いしたいです」

「公国王のことについては、後日、場を改めてお話しします。今日はウンディーネ公爵家の話をしましょう」

 アーマンディは頷き、シェリルも改めて席を正す。

「以前にも少しお話ししましたが、ウンディーネ公爵家の公爵は、あなたの実父であるカイゼルです。あなたの祖父は引退し、領地の本邸にお住まいです。そしてお祖母様は早くにお亡くなりなっています。そのため、カイゼルには兄妹がいません」

「そうなんですね。では僕が会えるのは祖父だけなんですね」

「残念ながらそうなります。そしてカイゼルの妻であり、あなたの実母の名前はアントノーマです。現シルヴェストル公爵ケイノリサの妹で、アジタートとは叔母と姪の関係になります。カイゼルとアントノーマは親が決めた結婚です。一昔前と違って現在のスピカ公国では、自由恋愛が認められています。そういった意味では前時代的な関係での結婚となりますね」

「……両親は愛し合っているのでしょうか?」

「……仲が良いと有名な夫婦です。ですが夫婦間のことなど当の本人にしか分かりませんよ。我が家の両親のように誰が見ても仲の良い夫婦もおりますが……」

 両親を見本にしているからシェリルのスキンシップが多いのだと、アーマンディに教えてくれたのはジェシカだ。気がつけば人目があるところでも、抱きしめようとするから気をつけるようにと、助言も受けた。なんでもシェリルの両親は所構わずイチャイチャしているのだとか。

 アーマンディは拒否する方法を考えつつ、期待もしていたが、さすがのシェリルもそこまではしてこないので、それだけは良かったと思いつつ、残念だと思っているのは内緒にしている。


「そしてあなたの4つ上にカエンという兄がいます。彼は領地で政務を行っていますが、今回はあなたに会うために中央都市に来るそうです」

「カエン……兄様と言った方が良いですか?」

「いえ、あなたはまだ対外的にウンディーネ公爵家を拒絶していることになっているので、ご両親も呼び捨てにしてください」

「あ……はい」

 できれば仲良くなりたいとは思うが、それはまだ分からない。アーマンディは後ろ向きになるばかりだ。


「私と歳が近いのでカエンとは幼い頃に何度も会っています。所謂(いわゆる)幼馴染と言うやつですね」

「幼馴染……ですか?確かグノーム公爵家のデルフィ様も幼馴染だと言っていましたよね?」

「ええ、ヴルカン公爵家の私が20歳、ウンディーネ公爵家の小公爵カエンは21歳、シルヴェストル公爵家の小公爵モデストメリーが22歳、そしてグノーム公爵家のデルフィが21歳で、幼馴染として仲良く遊んでいました。親達は誰と誰がくっつくのかなんて、馬鹿な話をしていたくらいです」

「く……くっつく?それは……恋人としてですか?それとも結婚相手ですか?」


 焦るアーマンディを見て、シェリルは苦笑いをする。子供の頃のその手の話などシェリルからすれば遠い昔の思い出話。ましてや親同士の話など全て無効だ。

「ええ、確か私とカエン、デルフィとケイノリサとか、面白い話では私とデルフィなどもありましたね。なにせ私は聖女の騎士になるのが前提で、幼い頃から剣を習っていましたし、男勝りでしたから」

「シェリル様と……カエン様が……」

 だが幼馴染もいなく、誰もが体験する幼少期を知らないアーマンディにとって、その話は笑い事ではない。

 ジリリと心の一部が黒く染まり、頭がクラリとする。この感覚には覚えがある。シェリルの秘密をジェシカが知っていると知った時の感覚。つまり嫉妬だ。以前のようにシェリルを責めてはいけないと、アーマンディは胸の前で手をギュッと握りしめる。


「カエンとは幼い頃のみの付き合いでした。ですが大人になってからも、彼の話は人伝に聞いています。精悍な顔つきで、魔力も強く剣の腕も見事で紳士的だと、貴族の子女の間で有名でした。誰が彼を射止めるのだろう、なんて話が良く出ていましたから。ですが浮いた噂もなく領地に行ってしまったので、残念がっている女性も多かったですよ」

「…………シェリル様も……カエン様を素敵だと思っていたのですか?」

 チリっと湧き上がってきた嫉妬という炎を隠しながら、アーマンディはシェリルを見る。

 だがその言葉の本当の意味を分かっていないシェリルは、カエンの顔を思い出すように視線を上に向ける。聖女の騎士の教育が始まった為、領地に戻った。だから思い出せたのはカエンの幼いころの顔立ちだけだ。前に座るアーマンディと良く似た、美しい顔立ち。

「そうですね。素敵だと思っていますよ」

「――――っ!!そう――なんですね……」

 シェリルの言葉にアーマンディは嫉妬の炎が燃え上がり、メラメラと音を立て始める。

 だが、相変わらず恋愛にのみ感情の機微が読み取れないシェリルは気が付かない。自分はカエン越しにアーマンディを誉めていると思っている。

「テシオは父親であるカイゼル似ですね。あなたとカエンは絶世の美女と名高い、母親のアントノーマに似ています。テシオは縁を切られているので今回は来れないでしょう。そしてやはり妹のメイリーンについては情報が出てきませんでした……アーマンディ様?」

「………………」

 

 無言を貫くアーマンディの頬が軽く膨らんでいる。両手はぎゅっと結ばれ膝の上だが、微かに震えている。

 その様子を見てシェリルは心の中で納得する。もうすぐ公爵家だ。さすがのアーマンディも緊張してきたのだろう。本当はもう少し話さなければいけないことがあったのだが、それは自分とカエンだけが知っていれば良いことだ。これ以上の情報は共有過多だ。そう思い、話すのをやめ、窓から景色を眺めるとウンディーネ公爵家の象徴である青とセカンドカラーであるグレーを基調とした、優美な建物が見えた。

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