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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ウンディーネ公爵邸編
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第70話 ネリーの瞳

「ネリー、ゆっくり、ゆっくりと目を開けるんだよ。急いじゃだめ、ゆっくりだよ〜」


 どんな時でも自分を優しく包んでくれるアーマンディの声が震えている。そう感じたネリーはゆっくりと目を開けることにした。

 本当は早く目を開けて、アーマンディの顔が見たい。自分を救ってくれた恩人であり、(いつ)しんでくれた母のような人。兄のように導いてくれていた人が実は儚く弱い人だと知った時に、守りたいと思った。守れる力があればと願った。だが、目が見えないという事実は、ネリーを何度も絶望の淵に追い込んだ。

 でも今は違う。自信を取り戻した守るべき人が、自分に光を与えてくれる。

少しずつ開かれていった目の先には美しい人が見えた。


「アーマンディ様?」

 ネリーが首を傾げると、涙を目にいっぱい溜めた美しい人が、ぎゅっと抱きついてきた。

 辛い時に抱きしめあい、寒い時には温めあって寝た身体の感触だ。


「ア……アーマンディ様……これが――銀色?」

 ネリーの手は、いつも触れていたアーマンディの髪を触る。スルスルと手の中をすべり落ちる感触。寝る時に触るのが日課だった。


「そうだよ……ネリー。銀色だよ」

 アーマンディの声が震えている。ネリーもだ。

 そんなネリーをじっと見つめる女性と目が合った。

「し……シェリル様?」

「ああ、そうだ。ネリー。私の髪は黒で、眼は赤だ。分かるか?」

「想像していたよりずっと綺麗な色です。シェリル様も――アーマンディ様もとても綺麗!」

「……ネリーも綺麗な瞳をしているな。まるで……熟成された赤ワインのようだ……」

「あかわいんって何ですか?」

「その内、見せるよ」

 シェリルはフッと笑って見せて、ネリーの頭をよしよしと撫でる。するとネリーはニコリと笑った。


 ジェシカの教えを乞うことで、アーマンディの力は格段に増した。

 そして一番の目標であったネリーの目の再生を試みることにした。そもそも無かった眼球を創るのだ。それには複雑な魔法陣が必要となった。ジェシカとアーマンディとシェリルで魔法陣を構築し、アーマンディが施行することで、眼球を再生することができた。

 だが、いきなり陽の光を浴びると、失明する恐れがある。その為、目に包帯を巻いて過ごし、徐々に包帯の厚みを減らし、今日、部屋の明かりを落としたアーマンディの部屋でネリーの包帯を外すこととなった。

 

 ネリーとアーマンディは抱き合って喜び、次は絵本を読んでとネリーがアーマンディにせがんでいる。いつもの光景だ、シェリルはそう思うが、心は晴れない。

 まさかあそこまで赤い瞳だったとは……シェリルは目を細める。

 赤い瞳であればヴルカン一族の養子にと、思っていた。だが、あの色は真紅に近すぎる。多少、紫がかっているようだが、真紅と言っても差し支えないだろう。

 ネリーの髪色は黒に近い茶色だ。だがほぼ黒と言っても差し支えない。光の下で茶色く光るくらいだ。

 黒髪、赤眼はヴルカン一族の証。

 平民であっても髪色と目色だけであれば、先祖返りで4大公爵の色が出るのは良くあることだ。そう言った場合、まずは魔力の有無を測る。一定量以上あれば公爵一族の養子に入り、公爵家を名乗れるようになる。魔力の量が一定以上なければ公爵家に入ることはできない。

 例えばミルバは灰色がかった黒髪に、赤紫の目色だ。そして魔力もある。だがその魔力の量はヴルカン一族を名乗るには程遠い。逆もある。ヴルカン一族に生まれながら、黒髪で桃色の目を持つ者もいる。だが魔力が多ければヴルカンを名乗れる。

 ヴルカン一族であったとしても、遠縁となれば多少の色の誤差は許されるものだ。

 シェリルとしてはネリーの瞳は赤よりも桃色に近い色、もしくは紫に近しい色ではないかと想像していた。そもそも茶色の髪と紫の目はグノーム公爵家に連なる者の証。ネリーの髪色が茶色がかっていた事から、ヴルカンとグノームの血縁者の子供ではないかと想像していた。

 ネリーに魔力があるのは分かっている。その魔力の量も申し分ない。だからこそ、紫や桃色の瞳であるならば、親戚筋の養子に迎えようと思っていた。

 だが、実際はヴルカン公爵家直系の象徴である真紅に近い瞳の色。

 養子にすること自体に問題はない。だが、ネリーが女の子だからこそ事情が変わってくる。ヴルカン一族に連なる血筋の女子は、聖女の騎士候補となる。もちろん、聖女の騎士が現れる御代は栄えると言われているので、喜ばしいことではあるのだが……。


「ネリーはご両親のことを知らないんだったな?」

「あ……はい。私は、目が見えなくて役立たずって言われて捨てられて、彷徨(さまよ)って、死んでしまいそうだったところをアーマンディ様に助けてもらったんです」

「アーマンディ様はどこでネリーと会ったのか、覚えていますか?」

「それが覚えていないんです。大聖堂を抜け出したことは覚えているんですが、どこをどうやって抜け出したのか……覚えているのはネリーに出会って、ネリーを助けたところでアジタート様の配下の方々に捕まったことしか……それが、何か?」

「いいえ、良いのです」

 ニコリと笑い、シェリルはアーマンディの部屋を出る。

 今、アーマンディはネリーを膝に乗せて絵本を読んでいる。ふたりとも嬉しそうだ。この幸せな時間を邪魔してはいけない。


 扉を閉め、数歩歩くとスッとミルバが横に付く。

「首尾は?」

「成功した。たが急な刺激は目の毒だ。当面はアーマンディ様の部屋で隔離することとする」

「そうですか……良かったです」

 ホッとしたように微笑むミルバ。

 ここ最近、ミルバはネリーを預かっていた。それは目が見えなくとも魔力を使い、自在に歩けるように特訓をさせるためだ。一生懸命に特訓に励むネリーをミルバは娘のような気持ちで見ていた。


「そうだな、だが瞳の色が真紅だった」

「真紅……ですか?確かネリーは親のことは分からないと」

「ああ、アーマンディ様も、ネリーと会ったときの記憶は曖昧だという。確か、ルージュの話だと、アーマンディ様が12歳の時に大聖堂を抜け出せたのは、当時の信女長の手配ということだったな?」

「ええ、そう聞いております。そしてその信女長はアジタートによって殺害されたとか……。アジタートもその兄も黙秘してはおりますが、事実でしょう」

「拷問でもなんでもして、詳細を聞き出すように指示しろ。大神官には私から話す」

「承知いたしました」

「それと、ネリーの両親の捜索も頼む」

頷くことを返事としてミルバはスッと消えた。


ネリーにとって良い結果になれば良いが……シェリルは窓から美しい外の景色を覗いた。 

暴走アーマンディさんを宥めつつ、なんとか再開することができました。

物語はここから佳境に入って行きます。

お読み頂けると幸いです。


※毎日、12時投稿予定です。

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