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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ヴルカン公爵領編
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第69話 願い

 アーマンディとシェリルは聖女の館へと戻り、そこには師としてジェシカとノワールの姿もあった。

 ジェシカは聖女の術の師として、ノワールはなんと護身術の師として入館した。更にアーマンディのたっての希望で、ギネも連れてくることができた。

 隣接するアーマンディとシェリルの部屋に、テラスはあるが、ギネが降り立てるほどの広さはない。そこでアーマンディの部屋から一番近い庭をつぶし、ギネの小屋を建てた。少し離れているが、テラスから顔を出せば姿が見える。ギネとアーマンディは毎朝、毎晩、おはようとおやすみの挨拶を交わしている。


 そしてギネの世話係として、こちらもアーマンディの希望で元信女長のルージュが戻ってきた。ルージュはアーマンディを裏切ったことを反省し、罪を償う覚悟をしていた。

 そもそもこの国の最高位である聖女を謀った罪は重い。ルージュが極刑に課せらることを知ったアーマンディは、ギネの世話係をさせるのに必要だと、強引な理由をこじつけた。

 これにシェリルは良い顔をしなかった為、協力を仰げなかったが、ジェシカが人は間違える生き物だからと大神官に交渉してくれた。ジェシカの大ファンである大神官は、逆らう事などできはしなかった。


 アジタートと、兄である元シルヴェストル公爵のグレンプレスは、聖女を殺害しようとした罪により大聖堂の地下室に生涯幽閉となり、ガーネットを含めた配下の者は幽閉の後に死刑が確定している。裁判はアーマンディの御代の安泰の為、大神官とイリオス手動で極秘裏に行われた。実はこれにはシルヴェストル公爵のケイノリサも加わっているらしい。

 身内の不始末を公爵であるケイノリサが裁くことで、今回の事件を表沙汰にしたくないのだろう、と言ったのはイリオスだ。あそこの領地はいまだに領民の不満が溜まっていて不安定だものねと付け足したのはアリアンナだった。


 イリオスとアリアンナはシェリルの想いが叶ったことを心から喜び、ロッシュと共に、男性でも聖女の資格があっても良いのではないだろうかという噂を密かに流し始めた。小さなところからでも情報を絶えず流すことにより、あっさり世情は覆るものよ?と言ったアリアンナは嬉しそうだった。


 アリアンナはアーマンディに『これからよろしくね』の言葉と共に指輪をひとつくれた。その指輪はシェリルが生まれて初めて退治した、魔物から作った浄化石だということだ。小さいけれど血のように赤い石がシェリルの瞳のようだと思い、アーマンディは毎日つけている。


 そしてアーマンディは今日もジェシカから教えを乞うている。ジェシカから術を習う時はいつもアーマンディの部屋だ。そこにはシェリルもいて、ふたりでいつも競うように講義を受ける。


「やはり浄化能力ではアーマンディ様の足元にも及びません」

 シェリルが嘆息すると、アーマンディはクスクスと声を出して笑う。

 今日は浄化石の効率の良い浄化の仕方を習っている。テーブルの上には浄化石が山のようにある。それをふたりで制限時間以内にいくつ浄化できるか競争していたのだ。

 だが同じサイズの浄化石を浄化してもシェリルがひとつ浄化している間に、アーマンディは10個も浄化してしまう。勝負は圧倒的な差でアーマンディが勝利した。


「聖属性と一括りにしてしまいがちだけど、その力は大きく5つに分けられるわ。浄化と回復と攻撃と防御、そして補助よ。シェリルの聖属性の能力は回復が主で、浄化はおまけ程度ね。その他の聖属性は普通にやると使いこなせないわ。だけど、代わりに火属性と風属性での攻撃や防御ができるから問題ないはずよ」

 ジェシカの教義は聖女の秘術に直結している。秘密裏に行われている授業の理由は、聖女以外には教えることができないからではなく、聖女以外は理解ができないからだという。聖女の魔法の使い方は生まれながらに聖属性も持つものにしか使いこなせず、更に聖属性が強くないと理解できないということだ。


「アーマンディ様は全て使いこなせるはずよ。私よりも聖属性が多いんですもの。驚いたわ」

 アーマンディが聖属性の力の有無を測る装置を使ったところ、過去にいる歴代の聖女の誰よりも強い力が計測できた。

「ですが代わりに水属性の魔力が少しあるだけで、他はどれも使えなかったんですよね」

 しゅんとするアーマンディをシェリルが肩を抱き寄せる事で慰める。

 その姿にジェシカはわざとコホンと咳を立てる。気がつけばいつもこうなっている。ふたりにあてられては堪らないとジェシカは思う。

「す……すみません」

 謝りながらアーマンディはすぐ赤くなる。これはこれで可愛いので良いとジェシカは思うが、シェリルは全く分かっていないようで、何がいけなかったのだろうと首を傾げる始末だ。


 シェリルとアーマンディはいつも隣同士で座る。そして自分はその対面に座る。教える身だからその並びは良いとしても、気がつけばシェリルがイチャイチャしようとするのは堪らない。またシェリルが無自覚だから良くないのだ……これはいつかシェリルに説教しようとジェシカは機を伺っている。


「さて、では今日から本格的に回復能力を重きにおいて授業を始めるわ。まずはネリーちゃんの目を治したいのよね?」

 ジェシカが仕切り直すとアーマンディは姿勢を正した。

「ネリーちゃんの目をシェリルは見たの?」

「ええ、走査しましたが、目の神経が通っていませんでした。眼球自体が欠損しているようですし、私の力では治療が不可能と判断しました」

「そう……治療の得意なあなたが不可能というならば、難しいのでしょうね」

「ジェシカ様、それは治らないということでしょうか⁉︎」

 身を乗り出し必死な様子のアーマンディに、ジェシカは優しい微笑みを送る。

「絶対とは言わないけれど、大丈夫だと思うわ。そして今言えるのはメリーちゃんの治療に必要なのは、スピカ神のお力をお借りすることよ」

「スピカ神の……ですか?」

「ええ、アーマンディ様も聞いたはずよ。あの美しいお声を……そして願いを叶えて頂いたのでは?」

「……っう……は……はい……あ、その多分……」

 アーマンディはチラリとシェリルを見て、顔を隠す。ジェシカはその行動の意味が分からず首を傾げる。そしてシェリルはまだその話を聞いていなかったと心の中で舌打ちをした。

「その時にお力を感じたでしょう?あのお力をお借りするのよ」

 アーマンディはジェシカの言うことが実行できそうになく、目をパチパチと瞬く。その様子を見てジェシカはテーブルの上にある汚れた浄化石を取り出した。

「シェリルは先ほどの浄化を、自身の力のみで行なったわ。ではシェリル……次はスピカ神の力をお借りしてアーマンディ様と勝負してみて」

 シェリルは頷き、アーマンディは良く分からないまま再び勝負となった。

「アーマンディ様、私が勝ったら頼みがひとつあります」

「え?今更なんでしょうか?それは……別に勝負とは関係なくお聞きしますが……」

「では承諾されたということで!合図をお願いします、ジェシカ様!」

 ため息で答え、ジェシカは合図を出した。分かっている勝敗に口を出すのも面倒臭いものだ。


 そして勝負はシェリルが圧勝した。不敵に笑うシェリルに、不思議そうな顔のアーマンディ。

「ではアーマンディ様、スピカ神に願ったことを教えてください!」

「――――っ!それは――」

 アーマンディが真っ赤になったことで、察したジェシカが間に入る。

「それは後でふたりの時に話してね。ところでアーマンディ様、これでスピカ神のお力があるとないとの差が分かったと思いますが、いかがですか?」

「あ……はい。そうですね、シェリル様が浄化した際に、いつもと違う魔力を感じました。それがスピカ神のお力なんでしょうか?」

「近いですが、違います。正確には自分の魔力の本質が変わるのです。感覚的にいうと、魔力が濃くなり強くなるイメージです。それほど有益になるので、アーマンディ様はまずスピカ神のお力を感じることから始めましょう」

 ジェシカは穏やかに笑い、今日はそこで授業が終わった。



 ◇◇◇




「シェ……シェリル様……この格好はなんでしょうか?」

 震える声でアーマンディはシェリル見る。アーマンディはシェリルの膝の上だ。腰に手を回されて、腕まで取られて、アーマンディは恥ずかしくて仕方ないが、シェリルは気にしていないらしい。


「父が母をお仕置きする時に、良くこうしていました。こうすれば逃げられないと言って……」

 それはご両親がおかしいのでは?と思うが、アーマンディは普通が分からない。夫婦はこうやってお仕置きするのだと言われれば、納得するしかない。


「でも……僕は悪いことはしていません。お仕置きをされる覚えはありませんよ?」

「スピカ神に何をお願いしたのですか?先ほどの勝負の答えをお聞かせください」

「――ぅっう――それは……」

 言い難い上に言い辛い格好だ。どんな罰だろうとアーマンディは思うが、負けたのは自分だ。

「だ……っ――あの、」

「だ?あの?」

 シェリルが首を傾げる。

 どうしてこんなに無頓着なんだろうと、アーマンディは更に赤くなる。

「だ……誰かひとりにでも愛されたいし、愛したいって言いました!そんな人が欲しいって言いました‼︎」

 ヤケクソ気味に叫んだ。なぜならこの願いの後に、出会ったのがシェリルだ。自分に優しく微笑んでくれた人。自分の手に優しく口付けをくれた人。そして助けてくれた人。愛を語り合えた人。

「ああ、つまりそれが私と言うことですね」

 フッと斜に構えて笑うシェリルを見て、アーマンディは熟れた林檎のように赤くなる。

 こんな恥ずかしいことを聞いても、シェリルは平気な顔をしている。いつだって、自分だけが狼狽えて、真っ赤になって、翻弄される。どうすればシェリルのようになれるのだろう。アーマンディはいつも悩むが、答えを出せずにいる。

「では、そんなスピカ神より頂いた相手である、私に施しを頂けますか?」

 シェリルがアーマンディの真っ赤になった頬に手を当てる。熱を持った頬に少しだけ温かい指が触れるとアーマンディはそっと目を瞑る。

 重なり合った唇の柔らかさを感じながら、この大事な人を失わないように、お互いが心からスピカ神に祈りを捧げた。


 窓から見える欠けた月が、ふたりの姿を映し、そして広がる雲がゆっくりと月を隠していった。

ここで第二章が終わります。


毎日更新を心がけて新年から頑張ってきましたが、第三章がうまくいかず……プロットが確定するまで少し時間がかかりそうです。これも全て暴走するアーマンディのせい……。話を作るのって難しいですね。


3月中には第三章を上げますので、引き続きお読み頂ければ嬉しく存じます。


よろしくお願い致します。

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