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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ヴルカン公爵領編
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第68話 決意(3)

「これは……なんの冗談だ?」

 ノワールは怒りから声を上げる。ジェシカは口元に手を当て、目をパチパチとせわしなく動かしている。


「冗談ではありません。これが真実のお姿です」

 冷めた視線をノワールに送り、シェリルはゆっくりとアーマンディをエスコートする。だがエスコートをされているアーマンディの服装は真紅の騎士の礼服だ。その長い銀の髪は後ろに綺麗に束ねられている。

 こうして改めてみると絶世の美女ではなく、精悍な顔立ちの公爵令息に見えるから不思議だとシェリルは思う。


「アーマンディ・ウンディーネです。そして私は男です」

 アーマンディは、早鐘の様な響きを上げる心臓を自覚しながら、震える声を誤魔化す為に視線を正面のふたりに向けた。

 シェリルとの今後のことも考えると、自分に必要なのは一歩踏み出す勇気だと自覚しているからだ。


「アーマンディ様は本当に男性でいらっしゃるの……ね?」

 さすがのジェシカも礼節を忘れてしまう。それほどまでの驚きだと言うことだ。

「はい。騙してしまい申しわけありません」

「いいえ、聖女が女性だけというのは、おかしいと思ってはおりましたの。だって神官は男性で、しかも聖属性を持っているのに、なぜ聖女だけが女性と限定されているのかと……だから驚きこそしましたが、違和感はありません。それにアーマンディ様はスピカ神のお力を頂いた方ですもの。全ての人が否定しても、スピカ神がお認めになっていらっしゃるのよ?それが全ての答えだわ」

 ジェシカがふんわりと笑うと、アーマンディの瞳は嬉しさからまた潤んでしまう。

 嫉妬からこの優しく聡い人を憎んでしまった。その事実にアーマンディは反省するばかりだ。

 

 そしてジェシカとは違い、ノワールは肩を震わせている。シェリルはノワールを警戒する。また、アーマンディを苦しめる様なら、その時は祖母であっても容赦はしないと決意し、ノワールの一挙手一投足を見逃すまいと視線を鋭くする。

 だが、シェリルの予想に反し、ノワールは大きな声で笑いだしてからの、突然のガッツポーズだ

「それは重畳!なんて善き日だ‼︎これは夫のマーロンにも教えてやらねばならないな!」

「は?お祖母様?気でも狂ったのですか⁉︎」

 予想外のノワールの態度にシェリルは面くらい、一瞬隙が生じる。そしてその隙を狙い、ノワールはアーマンディにグググッと近づいた。


「――――っつ!」

 アーマンディが大きな瞳を見開くと、ノワールはニヤリと笑い、突然アーマンディの細い腰を掴み、グイッと持ち上げる。

「お祖母様!」

 シェリルが声を上げるよりも早く、ノワールはアーマンディを抱き上げ、さっと部屋の隅に移動する。

「お前、男だったのか!それは良かった!どうでも良いが軽すぎるな、もっと体重を増やさないとシェリルを嫁にはできんぞ?いやいや、待てよ、これだけの美貌だとこちらが嫁でも良いかもしれん。だとしたら、このままで良いのか?いや、悩むところだ」

「お祖母様!アーマンディ様を下ろしてください!」

「ノワール、やめなさい!アーマンディ様が怯えているわ!」


 ふたりの言葉など聞かず、ノワールは子供をあやす様にアーマンディをヨシヨシと振り回す。

 アーマンディは驚いているが、恐怖は感じていない。なぜか分かるのだ。自分が歓迎されていることを。


「あ――僕が男でも良いのですね?」

「男だから良いんだ!そうだ、ひとつ言っておくぞ?ヴルカンが求める伴侶の基準は強いことだ。アリアンナは魔力こそ弱いが、精神的に強く政治に聡い。そして人を見る目がある。そのアリアンナがお前を気に入ってるのはこれを知っているからだな?私に気付かせず話をするとは、さすが私の息子の自慢の嫁だ。おっと、話が逸れたな?だからな、強さの基準は人それぞれだ。お前はジェシカ様に聖女の術を習うと良い。そうすれば強くなってシェリルに相応しい夫となれる!」

「――っ、夫……ですか⁉︎だってそんな――‼︎」

「真っ赤になるとは可愛いじゃないか!シェリルはなかなか良い女だぞ?自分が美人という自覚がなく、刺繍のセンスもなく、その天然っぷりは心配だが、努力家で愛情深い。そうだ!実は胸もでかいぞ!」

「――っ、刺繍は……確かに変わってるかもしれませんが、技術はすごいです!」

「そこに食いつくのか?これは素晴らしい夫かもな!」


 結果、笑いながら会話をするふたりを見て、ジェシカは安堵の息を漏らす。ノワールは真っ直ぐすぎて人の心の裏を読むことができない。だからこそ一度気に入ってしまえば、そのまま深く愛情を注ぐのだ。


「良かったわね……シェリル。ノワールはアーマンディ様を気に入ったみたいね。アーマンディ様は私とも仲良くしてくださるかしら?」

 シェリルからの返事はない。ただ、肩が細かく震えてくいるだけだ。


 ああ、恋人に自分ことを身内から言われるのは恥ずかしいものね……ジェシカはそう思い至り、シェリルを覗く。だがシェリルの表情はそれとは違う表情だ。まるで尊厳を傷つけられた様な……。

「どうして……皆は私の刺繍を変というのでしょう…………」

「………………」

 そのことかと思いジェシカは口を噤んで、一歩を踏み出した。

 この場にはいられない。アーマンディとノワールに合流し、聖女の技の師を名乗りでようと思いながら。

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