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聖女なのに、男です。  作者: 清水柚木
ヴルカン公爵領編
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第58話 ノワール(1)

「全く!なんだって私がこんなことを!」

 ブツブツと文句を言いながらも手綱を緩めることなく、栗毛の見事な馬を走らせるのはノワールだ。

 突然消えたアーマンディが、アリアンナの実家にいると連絡がきた時は焦った。なにせ大商人の家と言えど普通の邸宅だ。この国の第1位であるアーマンディに何かあったら責任を取ることになるのは、ヴルカン公爵家ではなく、スピカ公国第2位の資格をもち、かつ聖女の騎士であるシェリルになる。

 なぜかシェリルの翼竜であるギネと、ルーベンスが一緒とはいえど誰かが護衛に行かなければならない……そうなった時に本来だったら一番に駆けつけなければならないシェリルは倒れて無理、ヴルカン公爵であるイリオスはシェリルの誓約の解約をする上に、この事態の収拾に当たっているから無理。となるとノワールしかいなかった。


「あのクソ女め!シェリルをたぶらかした上に迷惑ばかりかけやがる!これだからアジタートの親族は!」

 怒りから叫ぶと更に不満が募る。

 ノワールはヴルカンの苗字を名乗れるものではあるが、直系からは遠く離れていた。確か血筋を辿れば何代か前がヴルカン公爵の子供だが……くらいの記憶しかない。だが、女児が生まれるのが稀な血統において100年振りに生まれた女児。聖女の騎士の資格をもてるもの。それ故に、生まれてすぐに本家であるヴルカン公爵家に引き取られ、英才教育が始まった。

 だが、生来じっとしていられなかったノワールは勉学から逃げ出し、体術のみを積極的に習得していった。しかも隙を突いては公爵家から逃げ出し市井へ下り、都市外に出ては魔物を退治する始末だ。皆がノワールに憤る中、いつも笑いながら助けてくれたのはブルカン公爵家の嫡男であるマーロンだった。

 そもそもノワールは聖女の騎士になる気はなかった。聖女の騎士になると聖女の館に入り、聖女に生活の全てを支配される事になる。更に公式行事全てに出席しなければいけなくなるし、政務とは無関係ではなくる。

 考えてから発言する事などできないし、言葉の裏を読み解くことなどもっとできない。政治の世界が苦手なノワールは、望まれても断るつもりだった。

 だが顔合わせした聖女候補であるジェシカを見て気が変わった。取り立てて美人というわけではない。かわいいという表現が妥当だ。だが金糸のように輝く髪は見事で、黄緑色の瞳すらも黄金色に染まって見えた。

 クスクスと笑う姿は明るく、少し高い声はまるで心地よい目覚めを知らせてくれる小鳥のようだ。この方であれば仕えるに値すると思ったノワールはこの時から、まじめに勉学に励むことにした。聖女の騎士の恥は聖女の恥。彼女に仕えるに相応しい人物のなろうと、周りが目を見張るほどの努力をした。

 ジェシカの聖女就任の儀には喜んで参列し、自らが率先してエスコートをした。するとそこで奇跡を見た。ジェシカがスピカ神のお力をいただき、光の波を公国に届けたのだ。こんな素晴らしい聖女に仕えることができる自分は幸せだと心から思った。

 聖女の館に入館する際に、マーロンから聖女の騎士の役目が終わったら結婚して欲しいと告白されたが、そんなことはあり得ないと言い、彼とは袂を分かった。彼が自分に一目惚れをしていることは、なんとなく気がついていた。実は自分だって好きだった。だが、恋よりも愛する人よりも優先すべき相手に出会えたのだ。それは仕方がないことだと涙を飲んだ。

 そこからは聖女の騎士として、ジェシカに付き添う充実した日々が始まった。ジェシカとともに国家のレセプションにも出た。スピカ公国中を巡った。外交として海外へも行った。どこへ行こうと、何をしようとも楽しかった日々はシルヴェストル公爵家の策略によって唐突に終わった。

 シルヴェストル公爵家はジェシカの両親を人質にし、聖女の座を譲れと言ってきたのだ。卑劣な手段には怒りを通り越し、呆れるしかなかったが、ジェシカはあっさり聖女の座を降りた。

 純粋に民を愛する彼女にとって、スピカ公国一位という資格は興味のないものだったのだ。

 それではと、マーロンと結婚し、ヴルカン家の小公爵の特権を使ってジェシカとその両親を保護した。これからはジェシカも結婚して、良い家庭を築いていけば良いと思っていたら、シルヴェストル公爵家から、聖女の仕事を手伝えと言ってきた。冗談じゃない!と憤ったが、ジェシカはあっさり受け入れた。

 彼女は真の聖女なのだろう。地位に興味はなく、ただこの国を守ろうとする。スピカ神が愛するこの国を。そしてそのまま結婚することはなかった。

 マーロンが公爵となりヴルカン領に戻る際には、ジェシカがミネラウパに残ると言うので、ノワールはお邪魔虫だと思いながらも息子夫婦と生活を共にした。だが嫁であるアリアンナはサバサバしていて、全く気にせずお母様と慕ってくれる。ジェシカとも友達の様に仲が良い。

 そんなアリアンナが何百年振りか、直系の女児を産んだ。奇跡の様な存在の孫はかわいらしく、更に聖属性の力を持っていた。

 聖女でありながら聖女の騎士にもなれる存在だと喜んでいたら、ジェシカがアジタートに渡したくないから公表しないで欲しいと言う。あんなクソ女にかわいい孫を委ねるのは絶対に嫌だったので了承した。


 それから3年後、ウンディーネ公爵家にアーマンディが産まれた。産まれたと同時に聖女の館に入った理由は身体が弱いからだと聞いた。更に精神虚弱ときたら聖女としての任にはつけないだろうと想像した。

 だが実際に見たアーマンディは美しく、あまりにもの美貌に一瞬怯む自分がいた。そもそもジェシカと同じくスピカ神の力を下せる聖女だ。身体が弱いはずがないし、精神薄弱であるはずがない。

 だから孫のシェリルに守られているのを見ると腹が立った。これで聖女が務まるのかと!あまりにもジェシカとは違う気弱な聖女!更に孫のうっとりした目!どう見たって恋してる目ではないか‼︎ 女同士ではひ孫も抱けないと思っていたら今回の騒ぎだ!

 やはりふたりの仲を割く必要がある!

 ノワールは馬に鞭打ち、スピードを早めた。

毎日12時に投稿します。

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